透明の人型
722 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ sage New! 2012/12/11(火) 19:36:43.82 ID:G+3GUFky0
友人の話。
山中の獣道を一人辿っていると、見えない何かに顔をぶつけ、転けてしまった。
幸いにも硬い物ではなかったようで、怪我は負っていない。
身を起こして確認してみたが、目の前の空間にはやはり何も認められなかった。
「一体何にぶつかったんだ?」と不審に思いながら、手を前方に伸ばしてみた。
すると、そこには何もない筈なのに、暖かくて柔らかい感触が返ってきた。
驚きながら撫で回したところ、目には見えないが、透明な人型の何かがそこにある。
背丈は彼と同じくらい。
まるで空気が人の形に固まっているみたいで、何も動かず、何の反応も示さない。
尚もそれを触っていると、いきなり背後から何かが「ドンッ」とぶつかってきた。
思わずよろめいて前方に踏み出すと、すっぽりと件の人型空間に嵌まり込んでしまう。
その途端、全身が硬直した。
金縛りに遭ったかのように、身動ぎ一つ出来なくなる。
悲鳴を上げることも叶わずに突っ立っていると、後ろから何かが触れてきた。
何者かが彼の身体を、恐る恐る撫で回していた。
やがて金縛りは解け、身体が自由に動かせるようになった。
慌てて背後に目をやったが、やはり誰の姿も見えない。
足早にそこから逃げだし、麓に着くまで足を休めなかったという。