猿酒

449 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM @\(^o^)/:2014/10/18(土) 20:01:19.68 ID:9ZdJyieC0.net[1/3]
杣人に聞いた話。 

仕事についてまだ間もない頃、山の中で酒の匂いを嗅いだという。 
鼻をひくつかせながら匂いを辿ると、やがて液体を溜め込んだ木の洞を見つけた。 
指に漬けて、恐る恐る舐めてみる。 

「酒だ。こんな所に酒が出来てる!」 
手で掬って一口呑んでみた。美味い。 
先輩の杣へ伝えに行くとこう言われた。 
「一杯おこぼれ与ったんなら、それで終わりにしておけ。 
 それは猿酒といってな、この山の猿が拵えてるって話だ。 
 猿は猿でも、大物の猿神様だ。 
 ちょっとなら目こぼししてくれようが、大っぴらに盗ると罰当てられるぞ」 

諫められはしたものの、あの味が忘れられず、帰り際にもう一度寄ってみた。 
記憶にあった部分の木には肉が盛り上がり、洞は綺麗に失せていた。 
「俺が酒好きなモンだから、猿神様が自慢がてら一杯奢ってくれたのかな。 
 畜生、もう一口呑んどきゃよかった」 
そう言って残念そうに、しかし嬉しそうに彼は笑っていた。 
噂では今でも時折、御裾分けに与る幸運な杣人がいるという噂だ。 

下戸である私に酒を語る資格はないかもしれないが、そんな場所にある液体を 
平気で口に含むという彼らの行動は、どう考えても理解不能である。

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