自販機の下

472 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/06/11 23:25
 ちょうど今くらいの時期だろうか。 
何年か前のある週末のことだ。 
会社の同僚と終電間際まで飲んで、電車で一人アパートに帰った。 
私鉄沿線、埼玉のとある郊外。アパートから駅までは自転車で十五分ほど。 
不便な場所だったが、親戚の持ち家を格安な家賃で間借りしていた。 

おぼつかない足取りで駐輪場に行ったのだが、自転車の鍵がない。 
仕方ないので歩いて帰ることにした。 
徒歩なら三十分。途中喉の渇きを覚え、自販でポカリなど。 
アパートまであと数百メートル。部屋で缶コーヒーでも飲むかと 
通りの自販で立ち止まり、無造作にズボンのポケットをまさぐった。 
酔っていたこともあってか、小銭を路上にばらまいてしまった。 

拾い集めると五百円玉が見当たらない。 
くそっ!よりによって五百円かよ・・・・ 
しゃがんで当たりを見回すが、どうやら自販機の下に転がった模様。 
ひざをついて、隙間五センチに手を這わすと 
げっ!今何か手に触れたぞ。 
思わずのけぞると、ひんやりと湿った感触が指先に残った。 
この辺りは古い家屋や畑が多い。近くに雑木林の公園もあるし、 
ヘビかカエルかもしれんな。 
結局諦めてアパートに帰ったのだが、かなり驚いたせいか、 
少し酔いが醒めた感じだった。それに喉も渇いていた。 

何かいらいらした気分になって、再び部屋を出た。 
ジャージ姿でマグライト片手にその場に戻ると、 
もう深夜二時近かった。 

自販機の後ろはブロック塀になっていて、その向こうは空き家らしい。 
なんだかしーんとしていたと思う。 
しかしその時は不審人物に疑われないかと気もそぞろで、 
周囲の視線が気になった。 
誰もいないことを確認して、おもむろに膝をつき、マグライトの 
スイッチをひねる。 

自販機の下には木の枝みたいなゴミと石ころがあった。 
さっきの感触は何だったんだと思いながら、とりあえず硬貨の回収を 
と、ライトを照らすと・・・・ 

一瞬ありえないものが見えた。 
だから最初は良く分からなかった。 

でも、それはマバタキした。 

向こう側から、誰かがこちらを覗いていた。 

その後、無我夢中で走って逃げた。 
必死に走ったせいで、気持ち悪くなってもどしてしまった。 

まあアルコールが入っていたこともあるし、何かの錯覚だと思うのだが、 
夜中、自販機の下を覗き込むことは二度とないだろう。 

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