多分「ババサレ」

595 名前:多分「ババサレ」 :03/05/08 03:22
リサの高校では、入学してすぐにレクリエーション学習があった。 
県の施設に一晩泊まって、クラスメイトとの親睦を深めようというイベントだ。 
しかし、その学校には女の子が極端に少ない挙句、リサは女の子の友達を 
作るのが苦手だった。結果的に、夜は男の子の部屋を訪ねてお喋りしに行った。 

深夜に大勢が話す事といえば、恋バナか怪談。リサ達は怪談で盛り上がった。 
その間、同席していたヤンキーは何度も「くだんねぇ」と言っていた。 
そのうち誰かが語り始めた怪談。 

「この話を聞いたら、奴は必ず来る。帰ってもらうためには呪文を7回唱えろ」 

みんな笑いながらも7回唱えた。リサは幽霊など信じないが 
来ないに越したことはないと7回唱える。 
しかしヤンキーが馬鹿馬鹿しいと騒ぎ始めた。みんなが 
「簡単な言葉を7回唱えるくらいで、子供みたいに意地になるなよ」 
と言うと、それを「幽霊を信じる弱虫だ」とますます馬鹿にした。 

リサは次第に嫌な予感がしたという。と言うのも、先程から誰かが 
この部屋をノックしているからだ。「入りたいのなら勝手に入ればいい」 
そう思ってはじめは無視していたのに、入ってくることもなければ 
呼び掛けに返事もしないし、鳴り止む気配もない。誰かの悪戯だろうか。 

そこへ、どうしてここに居るのか分からないくらいに気の弱そうな男の子、弱木田が 
リサに声を掛けた。 
「ねぇねぇ……」「何よ!」「大木君が起きないんだけど…」 
大木君を見ると、ベッドですやすやと眠っている。 
「この騒ぎの中、凄い度胸だなぁ」とリサは感心した。 

すると突然ヤンキーが「分かった、唱えりゃいいんだろ!!」と呪文を8回唱えた。 
みんな口々にヤンキーを罵った。6回ならば1回付け足せばいいだけのこと、 
しかし8回では言い直しが効かないからだ。そんな不安をよそに何故かヤンキーは 
「幽霊なんて居ないんだよ!!」と得意顔。 

次第にノックは「コココココ…」と連打し始める。 
ヤンキーが「みんなで俺を騙そうとして馬鹿にしてんだろ!!」と 
立ち上がってドアに向かうのを、みんなが止める。 
そのドアを開ければ、見知らぬ老婆が鎌を振り下ろしそうで嫌だった。 

緊迫した空気の中、また弱木田がリサに話し掛ける。 
「ねぇねぇ…」「何!?」「大木君が泣いてるんだけど…」 
見ると大木君はベッドの上ですすり泣いている。「大木君どうしたの?」声を掛けても返事がない。 
大木君は窓に面したベッドで寝ている。あの窓からも嫌な気配がする。誰も大木君に近寄りたがらない。 
異様な雰囲気になった部屋の中で、リサはある事を考えていた。 
携帯電話。これで先生を呼べば…!「しおり」に緊急連絡先が記載されている。 
その頃の携帯電話は普及し始めで、持っているのはリサとヤンキーだけ。 
しかしヤンキーは貸してくれないだろうしリサは自分の携帯電話が呪われそうで怖かった。 

躊躇していると、また弱木田が話し掛ける。 
「ねぇねぇ…」「今度は何よ!!」「大木君が血を吐いてる…!!」 
大木君はベッドの上で眠ったまま、エクソシストのごとく咳込みながら血を吐いている。 
もう気が狂いそうだった。 

もはやドアのノックはタタコンでドドンガドンなら高得点な乱れ打ちに変化している。 
こんな騒々しいのに、他の部屋の人は誰も気付いてくれない。異常だ。 

その時、弱木田が「僕が先生を呼びに行く」と言った。リサは弱木田のその言葉に 
かなりショックを受けたらしい。自分のエゴで躊躇しているから、こんな気弱な人が 
出来もしない事をしようとしている…。 
「私、携帯電話を持っているから、それで先生を呼ぶ」 
リサは震える指でボタンを押した。どうか幽霊が出ませんように。 

ちゃんと先生が出た。混乱する生徒たちの話は明確には伝わらない。 
鳴り止まないノックの話をしても、悪ふざけだと思われている。 
とにかく部屋に来てもらう事を約束した。 

いつの間にか、乱暴なノックは止んでいた。先生は事態が理解できていないから 
長い時間が経った後、部屋にやって来た。リサは腰が抜けていた。 
うずくまるリサを先生が抱え起こそうとした時に、初めてガクガク震えているのが分かったと言う。 

「おまえらさぁ、夜中にギャーギャー騒ぐから、全然眠れないだろ!!」 

突然、ベッドから起き上がった大木君が平然と言い放った。 
「いや…。それよりもアンタ、顔見てみ」「はぁ、ナニ言ってんの!?」 
だが、血だらけの自分の顔を見て「オオーッ、なんじゃこりゃあ!」と叫んでいた。 
それから医務室へと強制収容となった。 

リサはそれから、少し霊の存在を信じるようになった。ヤンキーはどうだか知らない。 

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