飛んだ松尾君

160 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/04/22 04:15
私がモロッコのマラケシって所で会った日本人の話です。 
そいつはいかつい岩石のような顔(松尾伴内ぽい)のわりにはソフトな語り口の関西弁の青年。 
こんな地球の果てで会った日本人同志、とうぜん私達はたちまち意気投合しました。 
ところでこんな世界の果て“糞”アフリカ迄わざわざ行くのには分けがあります。 
それは、質の好いハッシッシ(大麻樹脂)が安く手に入るからなんです。 
まあ薬ネタが嫌いな人はここからは読み飛ばして下さい。 

さて、いかつい顔のわりには謙虚な彼(以下松尾君とします)とすっかり意気投合した私は、 
知り合って二日目にはお互いの部屋を引き払い、新たに共同で一部屋を借り、滞在する事にしました。 
私達二人はひなが一日、ハッシッシを吸ってマターリしてたのですが、そんなある日松尾君が 
とても興味深い体験談を私に語ってくれました。 

松尾君はネパールで生まれて始めてヘロイン体験をしました。ところで突然私ごとで恐縮ですが、 
自分はライト派で、大麻、きのこ以外のものに手を出した事がないので実際のところ判断できない 
のですが、ヘロこそキングオブ薬! という話はもう腐る程ジャンキーの奴らから聞いてます。 
なにしろ覚醒剤が可愛く思えるくらい。使用当初は気持ち悪いのが続くらしいのですが、 
我慢して入れてると突然炎の如くキマるんだそうです。脳の覚醒が半端じゃない! といいます。 
(最初だけですよ。ヘロ中は、その最初のトリップが止められなくて、暴走するんですよきっと。。) 
ヘロイン中毒者ってその更正にアヘンを用いるくらいです。アヘンでリハビリするなんて凄すぎません? 
まあ話がそれましたが、とにかく彼はネパールでヘロインをきめました。 
そして彼の意識は無へぶっ飛び、暗黒のカオスの中をふわふわと浮遊していたそうです。 
すると闇の中から突然一条の光がスポットライトのように差し込んで来たそうです。 
その瞬間、松尾君は何故か突然自分のおかれている現状が非常に怖くなって、 
この暗闇からの脱出を試みようとやみくもに光源に向かって飛んでいったそうです。 
最初はピンホールのようだった光の差し込み口がだんだん大きくなって、そしてその光源を抜けた先には… 

「あれ?」 
松尾君は兵庫県の実家に戻っていました。みるとリビングの長テーブルで父親が酒を飲んでいます。 
いつもの日本酒に、つまみは里芋の煮物だったそうです。 
お父さんはちびちびと酒を飲みながら地元テレビ中継、阪神対ヤクルト戦を見ていました。 
スコアは7対3でヤクルトが勝っていたそうです。 
松尾君は半年ぶりにわが家に帰って来た安堵感と、ヘロインの鎮静作用のせいかあわてもせず、 
ごく自然に父親の隣に座って一緒に野球中継を見ていたそうです。 
その後両チームは点数を加算する事もなく、試合が終わってオヤジさんがテレビを消した瞬間、 
松尾君はネパールの安宿の共同部屋にいました。 
彼はその部屋の何も映ってないテレビのディスプレイを凝視していたのです。 
「お前どこトリップしてたの?」 
びっくりして振り向くと、同部屋のイギリス人がニヤニヤしています。 
「家に帰ってた」 「ホーム? 日本の?」 「そう」 
と答えると、そのイギリス人は 
「ああ俺も話には聞いた事はあるけど、俺自身は体験ないね。一度なってみたいもんだ」 
と羨ましそうに言ったそうです。 

話が長くてすみません。エピローグですが松尾君は日本に帰って来て、早速当日の阪神対ヤクルト戦の 
結果を調べるとまさに7-3でヤクルト勝利。オヤジさんにその夜里芋を喰ったか?と聞いたら 
「んなもん覚えてないわ! と言われました(笑)」 

松尾君が優しい笑顔で私に話してくれた体験談です。 

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