招かれざる客

125 :本当にあった怖い名無し:2011/05/29(日) 18:26:24.83 ID:QiOEhOE+O
携帯から失礼、しかも長いよ。 
いきなりだが、俺には全く霊感がない。
その俺が先日、仕事で地元では結構有名らしい幽霊屋敷へ行くことになった。
俺はそっちの地域は疎いので全く知らなかったのだが
以前、住人が敷地内の柿の木で首吊り自殺した、という、噂ではなく実話がある屋敷だ。
とは言っても、今もそこには人が住んでいる。仮にAさんとしよう。
築15年ほどの大きな貸家なのだが、あまりの幽霊屋敷っぷりにAさんも引っ越しを決意。
それに関わるいろんな手続きで、俺はAさん宅を訪れることとなった。

初対面でAさんは、「○○さん、霊感ありますか?」と聞いてきた。
霊感がある人は、門から先に進めずに引き返してしまうことがあるらしい。
Aさん自身、幽霊なんて信じていなかったのに、何度も遭遇してしまったという。
俺は毎年、夏の目標が「今年こそ幽霊を見る!」なのに
いまだに達成できていないほど鈍感な人間だ、と告げると
「じゃあ大丈夫かな…?」と、若干心配そうにしていた。

そちらが地元の同僚から、「お守り持ってけ」なんて半分本気で言われたが
こんな機会は滅多にない。勿論、何も持たずにAさん宅へ向かった。
Aさんは「具合悪くなったら言ってね」と、配慮とも脅しともつかない事を言ってくれた。
で、結果から言おう。ダメだった。鳥肌一つ、頭痛一つ、俺には起こらなかった。

逆さに女がぶら下がるという階段の踊り場でジャンプしたり
血まみれの男がはいずるという和室で寝転がったりしてみたが、何も感じない。
最初は頼もしそうな視線を向けてくれていたAさんも
しまいには「○○さん、相当ですね…」と飽きれ顔になっていた。
すごすごとAさん宅を後にし、いや待て、ひょっとしたらと帰り道の車内で何かが!
なーんて淡い期待を抱いていると、携帯が鳴った。
仕事中は電話を滅多によこさない母からだった。

何事か?と電話に出ると、母は「あんた今どこにいるの?」と聞いてきた。
どうかしたのかと尋ねても「大したことじゃない」としか言わない。
俺は今一人暮らしなんだが、母は「帰りに寄って、そしたら話す」と言って電話を切った。
で、退社後に実家へ寄って、その日母が体験した話を聞かされた。 
昼間、母が居間でうたた寝していると、半開きのドアの向こうを誰かが横切る気配がした。
母は咄嗟に「あ、お客がもう来ちゃった!」と飛び起きた。
廊下へ出ると、人影がその先の和室へ入って行くのが見えた。
慌てて和室へ行くと、そこには坊さんが一人座っており、母が部屋へ入ると読経を始めた。
有り難いことだと思った母は、正座してそれを聞いていた。

しかしそうしているうちに「あれ?お客ってこのお坊さんだっけ?」という疑問が湧いてきた。
よく見ると、坊さんは黒い袈裟を纏い、お経も葬式用?のものだった。
おかしいなぁと思いながらも、そうだお茶の用意をしなきゃと立ち上がろうとした時だった。
廊下側の障子の向こうに人が立っている。
そっと開けてみると、それは母の父親、つまり俺のじいちゃんだった。
じいちゃんは母に「そんなもんに茶なんか出さなくていい!」と言うと、廊下の向こうに消えた。

それで母は、やっとこの坊さんが「招かれざる客」である事に気付いた。
ここを立ってはいけない、という強い思いが湧き、読経を続ける坊さんに対峙した。
どれくらい経ったか、ついに坊さんの経が途切れた。
そして坊さんは、睨み付けている母に一言、「何故だ?」と言った。
母は何の躊躇いもなく、「何故なら、私のものだからだ!」と怒鳴った。

そして居間で目が覚めて、無性に俺の事が心配になって電話したのだと言う。

おおぅ…と思いつつ、その時、俺がどこで何をしていたのかを説明。
「やっぱりお前のせいか!」と久々にグーで殴られた。
母は昔から妙に勘の鋭いところはあるが、俺と同様に霊感はない。
常日頃、夢に登場したじいちゃんの墓参りをしては
「お父さんは○○を見ないで死んだんだから、せめて守ってやってね」と拝んでいるらしい。 
これでおしまい。長々とすんません。
俺はじいちゃんのせいで幽霊見られないんだろうか。

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