タロットカード

963 :本当にあった怖い名無し[sage] :2010/04/20(火) 21:58:51 ID:rGRpxADu0

週末突然、センパイに会いたいと、友人から電話がきて一緒に行くことになった。
友人はセンパイに、用件であるところの写真を見せた。 
水中写真だ。エアタンクを背負ったダイバーが一人。 
その横にダイバーに添うように、タンク、そこから伸びるチューブ(シュノーケルだっけ?)、 
ベストといったダイビング用品が一式。 
「ここには私がいるはずなの。このベストを着てタンクを背負って、カメラの方を向いて。」 
この写真は、初ダイブ記念に撮られた、インストラクターと友人のツーショットだそうだ。 
なのに友人の体は全くなく、体に隠れるはずのベスト、タンク、背景の海がはっきり写っている。 
体の一部が消える心霊写真はテレビでよく見たが、全身が透明などという大物、しかも 
被写体が知り合いなのを、生で拝むことになるとは思わなかった。

友人は当然めちゃくちゃ不安になった。 
で、センパイにタロットで占ってほしいというご指名だ。 
センパイのタロット歴は長く、信じる人は結構多い。一時は親の仕事まで占っていたとか。 
自分も友人もセンパイの占いは頼っていいと思っている。 
「うーん、最近全然やってないからなぁ、読めるかなぁ。」 
すがる顔の友人と興奮する自分の前に、センパイは渋い顔で愛用のカードを取り出した。

自信無げだったセンパイだが、カードをめくり始めた途端に変わった。 
「血縁絡みだな。父方と母方、両方の板ばさみになってる。それが写らなかった原因。」
「誰にもどこにも悪気がないのに、望みが相反して結果的にみんなが不満を抱えてる。」
などなど、すらすらとカードの意味を説明し、最初は実感がない顔で見ていた写真を見直し、 
「撮影者が吐き出した泡と思ってたけど、これ、オーブだね。」 
と言った。 
座敷童の部屋なんかメじゃない、大小無数の白い球体が渦巻くように被写体を囲んでいる。

友人は、実はこの旅先でユタに会う機会があった、と言った。 
そして、女に生まれたものの、霊的には男と見做されていると言われたそうだ。 
友人の家では妹さんはもう嫁いでしまい、残るは友人だけ。 
でも母方ご先祖も友人を『霊的に男』と見做して跡継ぎに欲しいんだね、とセンパイは言った。 
オーブは二手に分かれていて、それぞれが父母方の先祖両陣で、激しくぶつかり合っている、 
その真ん中で取り囲まれた結果が、透明人間になってしまった友人、と分析する。 
「もうヒートアップしすぎてて、今さらどちらかにつくと、他方の禍根を残す。 
 さっさと関係ない家に嫁に行ってしまうのが一番平和的かな。 
 ただ両方とも思いが凄く強いから、引き剥がす勢いで相当がんばって婚活する体力が要る。」 
勢いも何も、霊的に男性と言われても、友人の結婚願望は前々からかなり高い。 
決して並以下ではない器量なのに縁がない、その理由がわかった感じだ。 
でもそこまでの思いを引き剥がす体力って、どれだけ必要なんだろう。 
一族挙げて争奪バトルされてるのに、逆にそのせいで血縁に薄いよ、皮肉だなぁ、とセンパイは 
頭をかき、うん、確かにどちらも継ぎたくない、と得心がいったように友人は頷いた。
「あと、昔飼ってた犬、いまだにそばにいるね。 
 ご先祖のバトルから守ってくれて、おかげで今まで拮抗が保てたみたいだ。 
 そのせいでどちらかの側につく、つまり結婚もなかったわけだから、良し悪しだけど。
 犬も心配で離れられないようだけど、そろそろ限界。成仏させてやらないと可哀想だよ。」 
友人はあっ、という顔で、そういえば犬の写真が最近薄くなってきた、と言った。 
オブザーバーの自分は、ガチの心霊写真と、センパイの読み解きに興奮していたが、 
人生の半分をずっと、とうにいない犬に寄り添ってきた友人の心に思い至って頭が冷え、結構 
深刻な人生相談であることに気づいて、少し居心地悪く感じつつその後の長い会話を聞いた。 
心霊写真と占いから始まりながら、話は至って現実的な励ましで終わった。

友人を見送った後、ふと、たった5枚のカードからすごく沢山のことが引き出せるんですね、と 
思ったままを言った。 
「白状すると、自分ではいつも思いつきで出まかせ言ってる気分なんだ。」
あれだけすらすらと、出まかせって。 
「カードを置く前は、ちゃんと当たるだろうかって緊張だけ。始めると口から言葉が出てくる。」 
そして『当たってる』とか『そういえば』という相談者の言葉とともに調子に乗って、 
雪ダルマのように相談の分析やアドバイスが、頭の中で膨らんでいくそうだ。 
「星座や血液型占いでよく言う『どう言っても何か当てはまる』みたいな気がしなくもない。 
 あと、相談者の態度や反応から情報を引き出すコールドリーディングとか。」 
占い始めた時の言葉からはとてもそうは思えない。読み解く様は何かが降りたようだった。 
「無意識のうちに占い師を演じているのかもな。小心者だから。ただ、解説書に書かれている 
 意味は代表的ないくつかのキーワードでしかない。 
 カードはあくまでも象徴であり、示すものは相談によって無限に変化する。 
 本を頼りに占おうとすると、どれが当てはまるのかわからなくなることが多い。」

「カードとセットだった本は、ずいぶん昔に人に貸してもう返ってこないんだけどね。」
センパイの手元から『本が去った』? なんと重要な事態だ。 
「それ以来、思い浮かぶままに言えばいいや、って気になった。」 
それは、本に頼らずセンパイの能力のままに占いをしろと、本が言ったんでは。 
「正直、能力があると思えたことはない。昔はあると思い込みたがっていたけど。 
 でも霊感でなくても、相手の抱える問題を真剣に読み取って、相手と話ができて、 
 対話しているうちに解決への道があると相手が思えれば、占いの役は果たせるのかもね。」 
占い師=カウンセラー説ってやつだ。
そして、霊感にしろコールドリーディングにしろ、センパイは無意識なまま行なっている。 
二つのどちらかなのか、まったく違う原理なのかはまだわからない。 
カードは何かを伝えているのかもしれないし、本当にでたらめかもしれない。 
あの写真も、科学で説明できるのかもしれないし、まだ証明できない何かかもしれない。
友人が縁遠い理由も、本当は違うかもしれないし、この日の説明通りかもしれない。 
こういう曖昧なあたりにいるのが、オカルト一辺倒だった頃より気持ちいい、とセンパイは言う。 
それこそオカルト(隠されたもの)じゃないかと思う自分は、まだ考えが足りないのかもしれない。

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