富士山スカイラインの「霧」
411 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/02/25 18:32
大学生の頃の話
東京に下宿していたオレは、実家(静岡)への帰省を兼ねて
単独ツーリングに出掛けた。9月下旬、バイクで走るにはちょうど良い季節だ。
国道246号を軽快に走り抜け、午前中には御殿場に到着。
コンビニのおにぎりで昼食を済ませ、いよいよメインの「富士山スカイライン」へ・・・
この時点では空は薄曇りで、前方の視界も良く快適に走れそうな感じだった。
平日の富士山スカイラインは交通量が少ない。
自衛隊の演習場を横目に登り勾配を一気に駆け上がり、連続するカーブを
自分のバイクの音を楽しみながらリズム良くこなしていく。
しばらく走ると標高が上がってきたのか、体感的にもみるみる気温が
下がっていくのがわかった。
「まあ、富士山だしね・・・」
こんなもんだろう?と、心に浮かぶ一抹の不安を掻き消すようにバイクを走らせていた。
気温が下がり始めると同時に、周囲には少しずつ霧が出始めていた。
走り進むにつれ、その霧はどんどん濃くなっていく。
とあるカーブを抜けると、前方に今までとは比べものにならないくらい濃い霧の
固まりがあった。「霧」と言うより「雲」に近い感じだ。
「山の天気ってホントに変わりやすいんだな・・・」
オレはバイクのスピードを抑えながらその「雲」の中へ入っていった。
「雲」の中は夕方のような薄暗さだったが、思っていたよりも視界は良好だった。
一応ライトを点灯し30km/h位のスピードで徐行する。
気温は相変わらず下がり続けているようだ・・・と、そのうちにとうとう雨が降り出した。
すでにレインウェアを着ていたオレは構わず走り続け、富士山5合目への
分岐点まで辿り着いた。ここで一端休憩するつもりでいたのだが
強まる雨足と寒さを考え、休まず走り抜けることにした。
雨はいつの間にか真夏の夕立の様な土砂降りになり、道路上に幾筋もの
流れを造りだしていた。
分岐点からどれくらい走ったのだろうか、ふと気付くと道路脇に何か
大人のこぶし大の黒い塊がいくつもある・・・・・いや、動いている!
カエルだ・・・・・
大雨に誘われたのか、道路の両脇から大きなカエルがわらわらと這い出してきた。
その数が尋常じゃない。いったい何匹、いや、何百匹いるのだろう・・・
道路上に出たカエルは雨を喜んでいるのか、みな「垂直に」飛び跳ねている。
そう・・・まるでダンスを踊るかのように・・・・・
オレはバイクを脇に寄せ、しばしその景色を呆然と眺めていた。
・・・ぶるぶるっ!
不意に悪寒が走り、オレは肩と首をすぼめて体を震わせた。
いったいどれくらいの時間、この景色を眺めていたのだろう?
今のオレにはこの情景が現実とも幻とも判断つかなくなっている。
カエル達が相変わらず跳び続けている中、オレはゆっくりとバイクを発進させた。
カエルを踏まないよう慎重にバイクを進める。2~300m位進んだだろうか
少しずつカエルが減り始め、それと同時に雨足も弱くなる。
そしてついにカエルの姿が消え、雨も上がった。残るは霧だけである。
霧は一端濃くなったが、その後グラデーションのように徐々に消えていった・・・
山道を抜け、民家が見え始めた頃にはすっかり霧は晴れていた。
気温もだいぶ上がったようだ。
オレは自動販売機を見つけバイクを止めた。温かい飲み物が欲しかった。
コーヒーを飲みながら、今通ってきた富士山の方を見てみると・・・
霧はかかっているのだが、大雨を降らせる様な雲は何処にも無い。
雨を抜けてからまだ30分ほどしか経っていないのに・・・である。
そして、もう一つ、不思議な事に気が付いた。
「霧」の中を走っている最中、対向車と一回も擦れ違わなかった・・・
翌日、近所のバイク屋のオヤジにこの話をした。すると、
オヤジ「んな事あるわけねーだろ、ボケ!」
・・・未だに謎のままでつ・・・ おわり