工事現場

878 名前:ボウズ 投稿日:02/08/26 02:25
この話は今から約20年前、 
私がまだ中学生だった頃出来事です。 

夏休みも後1週間程となった8月の終わり 
ろくに宿題も終わっていないにも関わらず、友人2人と近所の市営プールに 
遊びに行くことになった。 
30度を超す熱気と、私の自宅正面の家でここ1週間程行われている 
駐車場工事の騒音とで、とてもじゃないが家の中で友人を待っている事が出来ず 
1時間ほどゲーセンに行こうと表に出た。 
すると、顔見知りとなっていた工事現場の男性が 
パワーショベルの操縦席から気さくに声をかけてきた。 

『よう、ボウズ宿題は終わったのか?』 

ここ最近の日課のような挨拶を交わし、私はゲーセンに向かった。 

1時間ほどゲーセンで過ごし、昼飯を食べに自宅に戻ると約束していた友人2人が 
先ほど挨拶をした工事現場の男性に怒られていた。 
どうしたのか聞いてみると、約束の時間より早めにきた友人が、昼休憩で誰も居ない工事 
現場のパワーショベルに乗り込んでいたずらをしていたらしい。 
私が戻ってきた事をきっかけに2人は解放されたのだが、2人は相当こたえたらしく 
プールに行く気がしなくなったから帰る、と言い帰ってしまった。 
私はさして気にもとめず、自宅に入った。 
それから数時間後、自宅の前がやけに騒がしいので、何事かと思い表に出てみると 
どうやら正面の家の工事で事故がおきたらしい。 
現場を取り囲む近所のおばさんたちの向こうで、作業服の人達があわただしく動いている。 
『おい大丈夫かっ!』 『しっかりしろっ!』 『救急車はまだかぁッ!』  
怒鳴るような叫び声、呆然と立ち尽くす人、泣き崩れて我を失っている人・・・ 
その場の雰囲気から、簡単な事故ではない事を窺い知ることが出来る。 
人だかりの隙間から覗き見てみると、一人の作業服の男性が横たわっている。 
その周りを、同じく作業服の人間が数人取り囲んでおり、詳しい状況はわからないが 
横たわった男性が周囲の呼びかけにもぴクリとも動かず、また作業服に 
かなりの出血が見られることから、私は漠然とこりゃ駄目だろうなと考えていた。 
程なくして救急車が到着し、救急隊員によって応急処置がはじまった。 
どうやら頭部にかなりのダメージを負っている様なのだが、救急隊員や同僚の作業員 
野次馬のおばさん達に邪魔され、男性の足元しか見ることが出来ない。 
私は目の前の出来事を、まるでテレビの番組のようにボーっと眺めながら 
ふと、倒れている男性はいったい誰なんだ、と思い始めていた。 
作業員の顔は殆ど覚えており、野次馬の隙間から何とか一人一人確認してみると 
いつも気さくに声をかけてくれる男性の顔が見当たらない。 
ま、まさか!先ほどまでは他人事だったのが、急に身近なことに感じられ 
変な震えが全身を襲ったことを覚えている。 

何分ほどそこにいたのだろう、帰ったはずの友人に肩をたたかれて我に帰ると 
救急車が音も無く走り出すところであった。やはり駄目だったようである・・・。 
私は、名前も知らない顔見知りが亡くなった事に多少動揺しながらも 
現場から離れられなかった。 
既に野次馬の数も減り、先ほどより大分状況が把握できるようになった。 

一人の男性が、ピクリとも動かずに横たわっているソレに泣いてすがりついている。 
いつからそこにいたのか、制服の警官がその男性をソレから引き離そうとしている。 
先ほどまでは足元しか見えなかったソレの頭部が徐々に見えてくる。 
同時に、別の制服警官がありがちなブルーのシートをソレにかぶせ始めた。 

私は、頭のどこかで 「見るな、振り返って自宅に入れ、見るな」 
という警告の声を聞きながらも、ソレから目が話せなかった。 

泣き叫ぶ男性が引き剥がされ、ついに私はソレの顔だった部分を見てしまった。 
はじけた石榴のようになったソレの頭部にはもはや顔は存在せず 
赤黒く変色した物体にしか目に映らなかった。 

そして、ブルーのシートがソレを覆い尽くす前の本の一瞬 
信じられない事がおきたのである。 

ソレは既に生きてはいない。 
動くわけがない。 
にもかかわらず、ゆっくりとソレの頭部がこちらを見るように回転し始め 
そして、カッと目が見開かれたのである。 
私は恐ろしくなり、振り返って自宅に逃げ込もうとしたら、直接頭に声が飛び込んできた 

『お・い・・ぼ・う・ず・・・』 

私はパニックになり、自宅の自分の部屋に駆け込むと 
友人二人も青い顔をして部屋に入ってきた。 
友人達も同じ光景を見たのかと思っていたらそうではなく、どうやら先ほどの 
パワーショベルのいたずらのことだと言う。 
2人に聞くと、誰も居ない操縦席に入り、エンジンもかかっていないからと 
適当にレバーをがくがく動かしていたら、そのうちの1本が折れてしまったらしい。 
で、そこにあったガムテープでぐるぐる巻きにして固定をしたとの事。 
彼らは、一旦帰ったものの、やはり気になって戻ってきたら事故になっており 
自分達のせいだと青い顔をしているのである。 
とりあえずこの件は3人の秘密にし、その日は別れた。 

翌日の母の話によると、亡くなったのは、やはりいつも声をかけてくれる男性で 
工務店の社長さんとのこと。で、よりにもよって自分の息子さんが操縦する 
パワーショベルの先端が頭部に直撃して即死だったと・・・。 
警察の調べで、操縦中にレバーが折れ、ショベル部分の操作が不能となったことが 
原因らしい。亡くなった男性以外に2人のいたずらを知るものは無い。 
あの男性には悪いが、やはりこの件は3人だけの秘密にするしかなかった。 

それにしても即死だったら動くはずは無い。 
しかし実際に顔がこちらを向き、そして声が・・・。 

『お・い・・ぼ・う・ず・・・』 

あの事故からちょうど1週間が過ぎ、いよいよ夏休みも終わろうとしていた。 
事故の最期に見たこと、聞いたことは、初めて目にする生々しい光景による 
一種の幻覚、もしくは白日夢か何かだろうと無理やり自分を納得させていた。 

その夜、ラジオを聞きつつたまった宿題をこなしていた。時間は深夜2時。 
さすがに眠気が強くなってきたので、そろそろ寝ようかと思ったその時 
突然ラジオからノイズ音が聞こえてきた。さっきまでちゃんとチューニングできたのに 
AM・FMのどの局も入らなくなってしまった。故障かな?と思いつつカセットに 
切り替えると、こちらは異常なく音が出るのでお気に入りのテープを入れタイマーにして 
ベッドに入った。 

5分もしないうちに、尿意があるような気がしてきた。 
こうなると気になって眠れないので、トイレに行きまたベッドに入った。 

ラジカセからは、聞き覚えのあるDJがリスナーのはがきを読んで爆笑しているのが 
聞こえる。私は夢うつつの中で、このDJ面白いんだよな、と思っていた。 

DJ、DJ、・・・!? 
私は寝る前にカセットにした、はずである。何故ラジオになっている!? 

ビックリし飛び起きようとした瞬間、体が全く動かない。 
金縛りである。私は自分の心臓の音が妙にうるさいのを感じながら 
目玉だけを動かして室内を見回した。 

すると、自分の足元にソレが居た。 
全身青白く透けそうな感じで、頼りない感じでそこにソレはたっていた。 

すると、先ほどまでDJの笑い声が聞こえていたラジカセからノイズ音が 
聞こえ、そのノイズに混ざって 

『お・い・・ぼ・・う・ず・・・な・ぜ・・だ・まっ・・て・た・の・・だ・・』 

と切れ切れに聞こえてきたのである。 
私は心の中で、『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』と繰り返していると 
ソレは私の足元からベッドに上がってきた。 
心臓が壊れるくらいの動機に襲われながらも必死に謝りつづける。 
やがてソレが私の腹の上に乗り、顔を覗き込むようにしている気配が伝わってきた。 
あまりの恐怖に目も開けられない。しかし、ソレは私の顔に顔を近づけ動こうとしない。 

どれぐらいの時がたったのだろう、不意に腹の重みが無くなり、恐る恐る目を開けると 
目の前には、真っ赤にはじけた石榴、その中で見開かれている両目、が見えた。 
ソレは私の腹から降り、頭側から覗き込んでいたのである。 
私はそこで気を失ってしまい、気づいたら朝になっていた。 

やはりソレは2人のいたずらに気づいている。 
そして、その事を秘密にしている自分にも恨みを持っている。 
恐ろしくなった私は早速友人2人に電話をしたが、2人とも既に出かけたとのこと。 

私は誰にも相談できずに、一人自宅で震えていた。 

その日、2人の友人は帰宅しなかった。 

2人の友人の家では大騒ぎになり、警察へも捜索願が出された。 
仲が良かった友人と言うことで、私のところにも警官が事情を聞きにきた。 
私は、2人の友人も心配であったが、それ以上に昨夜の出来事が恐ろしく 
事の経緯を全て警官に話した。早速パワーショベルに残された指紋と友人2人 
そして私の指紋が照合され、友人2人の指紋が検出、私の指紋は検出されなかった。 
平行して友人2人の捜索は続けられたが、結局その日は発見されなかった。 

2日後、2人の友人が発見された。 

駅ビルからの投身自殺で、2人で一緒に飛び降りたらしい。 
遺書その他は見つからなかったが、一連の騒ぎの当事者として責任を感じての自殺 
と見ているらしい。当然即死状態だが、頭部のみが激しく破壊されており 
その他の部位については奇跡的なほどダメージが無かったとのこと。 

はたして本当に自殺だったのだろうか。 

ちなみに、警察に全てを話した私のところに、その後ソレは現れては居ません。

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