ベッドの下に居た男

969 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:02/05/21 02:57

 刑務所に、一人の男が収容された。 
 彼は刑務所の仲間に、自分が事件に巻き込まれた経緯を打ち明けたことがある。 
 彼の語った話が真実であれば、彼の刑務所送りは不当なものだ。 

 彼は、数日前から家の中で、金品が紛失していることに不審を抱いていた。 
 しかし、部屋の中が荒らされた形跡もないので、それほど気にしなかったのだ。 
 ある日、彼が帰宅すると、誰も居ないはずの部屋に誰かの気配がする。 
 彼が部屋の明かりを付けると、見知らぬ男が突然に彼を殴りつけた。 
 次の瞬間、倒れ込んだ彼の足に、激痛が走る。 
 男が彼の足に、包丁を突き刺したのだ。 
 彼は、痛みと恐ろしさのあまり、目の前にあったベッドの下に潜り込んだ。 
 その時、運悪く彼と交際していた恋人が、部屋に入って来た。 
 男は何と、彼女の腹部を刺し、そのまま逃げ出したのだ。 
 堪らず彼は、「大丈夫か!」と、彼女に呼び掛けてみた。 
 彼女は、荒い息を吐きながら、返事をする。 
 彼女は、まだ生きていたのだ。 
 彼は、彼女をベッドに運び、救急車を呼ぼうと考えた。 
 しかし、足に傷を負った彼は、彼女を抱きかかえた時、倒れ込んでしまう。 
 その時に、彼女は頭を強く打ったため、病院に運ばれたものの、数時間後に亡くなってしまったそうだ。 
 彼はその後、精神に異常をきたし、「俺が彼女を、殺してしまった」と泣きながら叫び続けていたため、彼女を殺した犯人として警察に逮捕された。 

 彼の話を聞いた刑務所の男は、現在、まっとうな仕事をしながら普通に暮らしている。 
 そして、飲み屋に行く度に、この話をみんなに聞かせるのだ。 
 「あいつは、本当に可哀想な奴だ。」 
 「刑務所で、自殺してしまった・・・」 
 「この話を知った奴は、あいつと、あいつの彼女の幽霊が現れるかもしれない」 
 「でも、本当に怖いのは、あいつらの幽霊なんかじゃない」 
 「本当の真犯人が、捕まっていないことなんだ」 
 そう呟き、いつも飲みつぶれるのであった。


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