ひじょうボタン

127:光優会OB:2015/12/13(日)11:35:31.35 
俺も子どもの頃は 奈 良 に住んでいました。 
そこで体験した大変怖い話があります。 

俺が通っていた小学校には、地下道がありました。 
地下道といっても、線路の下をくぐるだけの短い通路でした。 
5年生の今時分の季節、俺は地下道で怖い体験をしました。 

その日、俺はスーファミのガロデンをすべく一人でイの一番に下校しました。 
その折に地下道で、押しボタンのような物が目に留まりました。 
地下道の壁に忽然と現れた押しボタンのようなそれは、明らかに今朝まで無かった物です。 
真っ赤な台座に、白いような銀色したような色の丸いボタン。 
壁にひっついてる、一本のコードのような線。 
きわめつけは「ひじょうボタン」と書かれた、室名札のような物。 
しかし普通、非常ボタンというのは丸いボタンだけが赤いはずです。 
この時点で異変に気が付くべきでしたが、俺は(工事があったのか)程度にしか考えてませんでした。 

地下道を上ってから、俺は嫌な予感がしました。 
町の様子がいつもと違うのです。 
このテの話によくあるような、無人とか無音の世界だったわけではありません。 
空の色とかも、いつもと同じでした。 
でも、町の建物が文字通り一朝一夕でガラリと変わっていたのです。 
それでも俺はガロデンのことを考えると胸が高鳴り、その勢いで家路を急ぎました。

しかし、俺は国道のところへ出る前にもう心が折れそうでした。 
先ず遠目に、いつも前を通ってるビルが忽然と消えてました。 
勇気を出して近づくと、やっぱりビルが跡形もありません。 
ドギマギしながら振り向くと、バス停のベンチがプラスチック板の物に替わっていました。 
そこには昔から、木製のベンチがあったのです。 
しかもプラのベンチは、汚れたり色褪せてたりして全然新品ではありませんでした。 

ベンチの前を通るのが恐くて、さりとてビル(址の空き地)の前を通るのも恐かった俺は迂回しました。 
迂回した道も左右の家々や店々が、まるでよその町みたいに変わっていました。 
でも(年末の工事)とか必死で自分を騙して、再度迂回して元の場所へ戻りました。 
そして横断歩道を渡って、ビル(址の空き地)の前から家の方へ走りました。 
こちら側のバス停も変だったのですが(とにかく家へ!)とばかりに走りました。 

そして俺はすぐ、立ち止まりました。 
カーブを曲がると不○家のファミレスが見えてくるはずなのですが、どうも変です。 
この時点で俺は人や車の音すら恐怖の対象になってたので、目立たないよう普通に歩き始めました。 
カーブの先に、大きい八面体のオブジェがいくつか見えました。 
色は銀色で、オブジェの奥には幾何学的な形の建物等がありました。 
どれも見た事がない物体ばかりだし、あれらがオブジェだったという確証もありません。 
むしろ単なるオブジェであった事を祈るばかりです。

俺はさりげなく道の向かい側に目を遣り、それから踵を返して元来た道を引き返しました。 
横断歩道を渡ってしばらくして、下校してくる奴らとすれ違いました。 
でも俺はその時(教室へ戻る……)事で頭がいっぱいになり、知った顔を探す等の努力をしませんでした。 
尤もどう考えても異世界ですから、今思えば現地の子たちと無用の接触をしなくて正解だったのです。 
どんな社会か分からないのに、身元不明の子としてどこかへ連れて行かれるわけにはいきませんから……。 

途中、地下道に非常ボタンのような物の一式が忽然と消えてました。 
しかも装置を撤去した工事の跡とか、そういうのは何もありません。 
俺は(さっき押しておけば良かったのかな)と悔いつつも、無事に教室へ戻りました。 
今思えば、そんな得体のしれない物(しかも装置らしい物)は不要不急で触らないに限りますが…。 

教室で俺と同じ通学路の子(地下道を通る仲間)と一緒になり、再び俺は地下道へ向かいました。 
非常ボタンのような物は、相変わらず忽然と消えています。 
でもそれから地上へ出た時、町の様子はいつもと同じでした。 
バレエ教室が入ってるビルも、不○家の大きいファミレスも無事でした。 
俺の家も無事で、気になる中身の数々も異状なしでした。

その後も俺は、この地下道を使って登下校を続けました。 
でも異状が起きたのはこれっきりで、俺は無事に卒業し中学へと進学します。 
その途中で引っ越しまして、近年まで高田へは一度も来ませんでした。 
仕事でこの近辺を通る時も、役所通りから向こうへは一度も行きませんでした。 
懐かしい気持ちも、時間の余裕もありましたが敢て行きませんでした。 
わざわざ行く理由が無いし、もし八面体に招かれているなら意志を強く持って拒まないといけませんから。 

しかしそれと同じぐらい、またあの大きくてスマートな八面体たちに(逢いたい)という気持ちも否定できません。 
自分でも意外なのですが最近になって、少なからずこういう気持ちが起きるのです。 
次に八面体を見る時は、なにかものすごいのし上がるスタートだというような気持ちがあります。 
そのぶん後戻りはできないという強い予感がします。 
俺はそれをこそ恐れているのかもしれません。 
それこそ根拠は何もありませんが……。 

俺の話は以上です。


新たな謎 · 1週前
オカルト板のスレでは「奈良」がNGワード。 
原因は不明。スレでもかなり話題になっていた。 
間にスペースを開けたり、漢字以外で表記するとOK。

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