過ち

273 :黒 ◆9fw1ZntG8Y :2006/08/12(土) 04:54:25 ID:yNwqTCvu0
仲の良かった先輩が職場を辞めて、 
家業を継ぐために実家に帰りました。 
それから半年ほど経ってから知ったのですが、 
先輩は実家の裏山にある川に身を投げて亡くなったそうです。 
帰ってから一ヶ月ほどでのことだったそうです。 
家業が行き詰まっていたわけでもなく、 
一緒に田舎へついていった奥様も原因の心当たりが無いらしいです。 

先輩が会社を辞めるときの送別会の帰りに、 
電車で二人きりになったときに聞いた話を思い出しました。 

先輩が産まれ育ったのは北関東の山間部で、 
実家の裏が山になっていてよく遊んだそうです。 
2つ下の弟がいて、しょっちゅう山の中に行って 
追いかけっこしたりヒーローごっこをしていたそうです。 

先輩が小学校1年生の時、一緒に遊んでいた弟さんが川に落ちて亡くなりました。 
両親はとても悲しんでましたが、先輩に対しては 
あまり怒ったりしなかったそうです。 
兄が目を離したのは悪いけど、 
事故はしょうがないと。 
それからは高校を卒業するまで実家で暮らしていましたが、 
裏山に行くことは禁止されていて、二度と行くことはなかったそうです。 

でも、実際には何度か行ったことがあるそうです。 
一度目はただ遊びに。 
その後は、そこにまだ 弟さんがいるのか を確かめに。 

何年かおきに山に行くのですが、 
いつも同じその場所に弟さんが立っているそうです。 
そして、まだ自分が許されていないことを知るのだそうです。 

「でも、事故なんだから、弟さんも先輩を恨んだってしょうがないじゃないですか」 
理不尽で不思議な話に口を挟みました。 

「遊んでるときにあいつを突き落としちゃったんだよ」 
そう言って先輩はうつむいていました。 

高校を卒業するまで弟さんはそこにいたそうです。 
それから実家を出るために無理に進学して上京し、 
就職して実家にも帰らなかったそうです。 
ずっと帰らないつもりだったけど、 
どうしても実家の都合で今回帰ることになってしまったそうです。 

実家に帰ったとき、弟さんがまだいたのでしょうか。 
今となっては確かめることはできません。 

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