繋がった

204 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/05/18 02:54
私が学生だった頃の話です。

友人が親元を離れ、一人暮らしをすることになりました。引越しの手伝いをし、
そのまま泊りがけで飲み会をしようということになり、早速手伝いに行きました。
新居は古い木造アパートで、四畳半の台所と六畳の和室、それにユニットバスと
いう造り。目の前は空き地で、風の通りは良いのですが、夏は薮蚊が多そうだな、
などとのんびりと思っていました。

日中は引越しの片づけを手伝い、夜になって飲み会が始まりました。飲み会とは
いえ、まだ引っ越した初日です。一応回りの住民にも気遣って、そんなに馬鹿騒ぎ
をすることも無く、集まった数人でまったりと話をしながら時を過ごしていました。
何の話をしていたのか、もう忘れてしまったのですが、別に怖い話をしていた訳で
もありません。しかし、話をしながら私はあることに気が付きました。

 この家は古い木造アパートだけあって、部屋の電灯が蛍光灯ではなく電球で
した。そのため部屋には陰影があり、話している私たちの姿も壁にぼんやりと
影が浮かんでいます。その影が、多いのです。光の加減で影が二重になることが
あるので、そのせいかとも思ったのですが、影の位置は私たちの間にあり、まる
で一緒に話を聞いているようでした。

 こんな影の居る家に越してきた友人が気がかりでしたが、引越し初日にそれを
言って無駄に怖がらせるのも悪い気がして、翌日何もこの事は話すことなく帰宅
しました。
 その日の夜、この事が気がかりだったせいなのか、夢を見ました。
場面は友人の家。時刻は夜中。昨夜と同じ状況で、電球の明かりの下、友人達
と話をしている自分。そして視線の先には昨夜と同じように一つ多い壁の影。

夢の中の影は私がじっと見ていると、そのうちゆっくりと左右に揺れ始め
ました。まるで私に見られている事に気が付き、私を挑発するような動き
です。影からは悪意が感じられ、私は後悔していました。あの影の存在に、
気付かなければ良かったのに。

ふと周りを見回すと、友人達はいつの間にかおらず、この部屋には私と影
だけが残っていました。影は、最初は人の形を保っていたのですが、揺れて
いるうちに形を変え、四つん這いになっていきます。なにか、動物の思念の
集合体のように私には感じられました。
それも邪念を持った集合体。
私は逃げ道を探し、じりじりと後ろに下がってゆきます。六畳の狭い部屋
の中、正面に影の映る壁。左横が窓。右横が四畳半の台所と玄関へ続く
障子戸。背後が正面と同じくざらざらとした質感の、昔ながらの素材の壁。


来るな。来るな。来るな。来るな。来るな。

心の中で祈るように呟きながら、後ろに下がる私。影は揺れながら壁から
離れ、立体となって私に近付いてきます。
後もう少しで壁に背が付いてしまう。
もう駄目だと思った瞬間、私の背後の空間が急に広がりました。壁面が
消え、その代り、私の家の自分の部屋が現れたのです。自分の部屋の、窓
がある面がそのまま友人の部屋の壁面に替わったのでした。
これで逃げられる。
そう思った私は急いで窓から自分の部屋へと入り込み、ガラス窓を閉め
ました。私が自分の部屋に逃げたことを、影に知られたくなかったのです。
が、閉める瞬間、影と目があったような気がしました。


しまった。繋がってしまった。

何がどう繋がったのか、そんな論理的なことは考えられませんでした。
ただ、「繋がった。」と思った瞬間、私は一気に覚醒しました。一気に現実
の世界に戻ったのです。
が、目が覚めた途端、私の耳にガラス窓を叩く音が聞こえました。

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン・・・。

風で木の枝が当たった等という音ではありませんでした。明らかに規則的
なノックの音。
体は金縛りに合い、動けません。繋がったのは、友人と私の部屋。そして
あの世とこの世の事だったのでしょうか?

私は恐怖のあまり失神したようで、次に気がついた時には朝になって
いました。が、しばらくの間、夜になると金縛りにあって窓を叩く音が
聞こえるという現象は続きました。


その後ですが、結局影は窓を開けて私の部屋に入ってくるまでのことは
出来なかったようで(それでも十分恐怖でしたが)、しばらくすると諦めた
のかこの現象は終わりました。件の友達にはそれと無く様子を聞いてみた
ところ、
「うん。何か居るようで、時々勝手に電気がついたり扉が開いたりするよ。
でも、気にしないから別に平気。」
とあっさりと返されてしまいました。気にしなければただの影やポルター
ガイスト程度で済んでいたものを、必要以上に意識しすぎて、私の家(の外側)
にまで呼び寄せてしまった。ということでしょうか。

以来、人以外の「何か」を見た時にも、必要以上に興味を持ったり怖がったり
はしないように、押さえるようになりました。 

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