折り詰め

288 1/2 sage New! 2008/10/16(木) 13:56:59 ID:8mArHdCN0
近所の中華屋でラーメンを食ったんだが、金を払おうとしたら、店主がいらないと言うんだ。
「今日でお店終わり。あなたが最後のお客さん。ひいきにしてくれてありがとう。これ、おみやげ」
と、折詰めを二つくれた。
俺は何と言っていいかわかんなかったけど、
「とても残念です。おみやげ、ありがたく頂戴します。お疲れさまでした」
と挨拶して店を出たんだ。

折詰めの中を見たら、餃子やら春巻やら唐揚げやらが、みっしりと詰まってる。
ちょっと一人じゃ食べきれないボリューム。
面白い体験だな。得しちゃったな。と、楽しくなってさ。
帰り道に友人に電話して、経緯を話してから、
「今、俺んとこに来たら、中華オードブルがたらふく食えるぜ」と誘ったんだよ。
すると、友人は変な事を言うんだ。
『その折詰めの中身、食ったのか?』
「食ってないよ」
『いいか、絶対食うな。それから、絶対アパートに戻るな。
 そうだな、駅前のコンビニに行け。車で迎えに行ってやるから』
「どういう事が全然わかんないんだけど」
『説明は後だ。人のいるところが安全だ。コンビニに着いたら電話くれ』

とにかく俺はコンビニに向かったよ。で、友人に電話した。
「着いたよ」
『こっちももうすぐ着く。誰かに後を付けられたりしてないか』
「えーと、お前大丈夫か?」
『それはこっちの台詞だな』
それから、友人と連絡が取れなくなった。携帯がつながらない。
小一時間コンビニで待ってたけど、友人は現れない。

友人が言った『絶対アパートに戻るな』というのが、何故か頭に残ってたから、
ネットカフェで朝まで過ごし、始発で実家に帰った。
いまも実家でゴロゴロしてる。
他の友人に尋ねても、そいつとは連絡が取れないそうだ。
そろそろ学校も始まるし、友人の消息も気になる。
折詰めはコンビニのゴミ箱に捨てた。

以前、中華屋で折詰めを貰ったものです。
九月も中頃を過ぎて、さすがに実家に居づらくなったので、アパートに戻ってみた。
晩飯にコンビニ弁当を食っていると、お隣の人が来たんだ。ちょっといいかな、って感じて。
「もう、大丈夫なのか」って聞かれたんで、すごくびっくりした。
え?なんで知ってんの?
でも、お隣の人が続けた話にもっとびっくりした。
「夜中にガラの悪い男が、あんたの部屋のドアやら壁やらをガンガン蹴ってたんだよ。
 借金かなんかでヤクザとトラブったのかと思った。しばらくあんたの顔も見なかったし。
 でも、あんたも戻ってきたんだしね。詮索はしないよ」
帰ろうとするお隣の人を引き止めて聞いた。
「それはいつ頃のことですか」
「八月の終わり頃と、先週くらいかな。
 先週のはしつこく蹴ってたから、『警察呼ぶぞ』っていってやったら、すぐ引き上げたみたいだな。
 ……もしかして、知らなかった?」
俺が半笑いな感じで頷いたら、お隣の人は無言で出ていった。
俺も即、部屋をでた。

それから、カプセルホテルとかを転々としてる。
実家にまた戻るのいいんだろうけど、よくわからない災いをもたらしそうで、正直怖い。
とにかく、消息不明の友人に話を聞くのが解決の近道と、学校の知人と連絡を取り合ってるが、いまだ音信不通。
どうしよう。

すいません。以前、中華屋で折り詰めを貰ったものです。
消息不明の知人が、自殺していたことが判明しました。
俺は学校を辞めました。 
アパートも引き払いました。
多分、これで終わりになるでしょう。

本当の最後として。

俺が消息不明の友人と何とか連絡を取ろうとしていた時、頼りにしていた奴がいた。
そいつは友人と古くからの付き合いで、そいつならば友人の居場所の見当もつくんじゃないか、俺はそう思ってた。

アパートから二度目の逃亡で、カプセルホテルに滞在中、そいつから携帯に電話があった。
「お前に嘘をついていたことを、まずは謝る。
実は俺は、お前から友人のことを問われた時には、友人が自殺したことを知っていた。
車庫で首を吊っていたそうだ。
通夜の晩、俺は親御さんから呼ばれて、別室で話をした。
親御さんは、『自殺する理由がどうしてもわからない』とおっしゃる。
俺も『まったく思い当たることがない』と答えた。
すると親御さんは、携帯電話を俺に見せた。友人の携帯電話だ。
握りしめたまま息絶えていたそうだ。

遺書らしきものなかった。
もしかすると、この携帯になにかメッセージがあるのでないか。
そう親御さんは考えて、俺に確認してくれとおっしゃった。
俺はちょっと奇妙な感じがしたが、親御さんに機能と操作を説明しつつ、なかを見た。
録音もなし、メモもなし。
次に発信履歴を見た。
そこには、●●●という名前がずらっと並んでいた。全部不在だった。
友人は多分、自殺する直前まで、●●●に電話を掛け続けていたんだろう。
履歴のページがその名前で埋め尽くすまで。
さらに、着信履歴を見た。
お前の名前があった。

俺は正直に、親御さんに説明した。
お前から友人に電話があり、しばらく会話した後、友人は●●●に電話を何度も掛けたがつながらなかった。
そして、友人は間違いを犯した。その後、お前が友人に何度か電話を掛けた。とね。
親御さんに、お前のことと、●●●について聞かれた。

俺は知っていることを全部教えた。●●●は何のことかわからなかったから、わからない、と答えた…」

コンビニで待ちぼうけをくったあの晩に、すでに友人は自殺していたんだ。
●●●といえば、あの中華屋の店の名前。

そいつの話はまだ続いたが、もうどうでもよくなった。
ただ、この街にいるのは良くない。災いがやってくる。
だから、逃げることにしたんだ。
さようなら 

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