きじまさん

75 :伝染る怪談:01/09/07 16:57
”きじまさん”と言う、あるチームの創立メンバーの友人がいた。
この人が、ひき逃げによる交通事故に遭ったところから、すべては始まりました。
リーダーを含めたメンバーが病院に駆けつけた時、「面会謝絶」の札がドアから外されたところでした。
廊下には両親がいて、母親は泣き崩れていましたが、父親は息子も喜ぶだろうからと、彼らを通してくれました。
病室に入った彼らが見たものは、全身を包帯に巻かれた”きじまさん”が、ベッドに横たわる姿でした。
四肢がなくなっていました。
両腕も両脚も切断され、しかし点滴や酸素吸入などは無く、ただ心電図のモニターが規則的な音を立てていた。
手遅れだったのです。打つ手がなかったのでした。
包帯から覗いた片方の眼だけが、ぐるりと動いて彼らを見た。
そして、低く包帯にくぐもった声が、ぶつぶつ何かをつぶやいた。
リーダーが耳を寄せると、
「俺をこんなにした犯人を捜し出してくれ…」
わかった、とリーダーは答えた。
「必ず犯人を捜し出して仇を討ってやる!」
直後、心電図の波形が平坦になった。

彼らは犯人探しに奔走した。
しかし、しょせん素人なので、犯人を見つけ捕らえる事もできずに、一年が過ぎた。

”きじまさん”の一周忌がきた。
彼らは墓前に集まった。

連絡をとりあったのではなく、「約束を果たせなかった」と、全員が詫びるために来たのであった。
彼らは墓前に手を合わせ、中には嗚咽する者までいた。
誰もが、「すまん、許してくれ、成仏してくれ」と祈った。
どこからか、ぼそぼそとつぶやく声が聞こえる。
背後からだった。
彼らは見た。
後ろの墓石に”きじまさん”が座っていた。
腕も脚も無く、全身包帯に巻かれて片方の眼だけを覗かせ…
「俺を殺したンは、お前やろ!」と、唸るように言った。
大の男達が悲鳴を上げた。
口々に、叫び、わめいた。
「違う!俺らと違う!」
”きじまさん”は、現れた時と同じ唐突さで、すうっと消えた。
誰にも言うな。
リーダーの一言で、全員が自分達の胸の中にしまっておく事にした。

そして、数年後…

ある夏のこと。そのメンバーのひとりが、怪談で”きじまさん”の幽霊のことを話してしまった。
その場の友人は震え上がって喜んだ。
ところが…である。

帰宅して数日、その友人から電話があった。
友人は震える声でこう言った。
「きじまさんを見た」
自宅で入浴中、洗髪してる背後で、「ぼそぼそ」声がしたので振りかえると、
「俺を殺したンは、お前やろ!」
気のせいだよ、と彼は友人に言った。

電話を切った数分後、別の友人が「きじまさんを見た」と…。
自宅のマンションのエレベーターに、ひとりで乗っていて誰もいないのに、「ぼそぼそ」声がする。
振りかえっても当然誰もいない。
だが視線の下の方に、四肢のない体を、ぐるぐると包帯に巻かれた片方の眼が睨んでいた。
「俺を殺したンは、お前やろ!」
結局その夜は、何本もの電話を友人たちから受けた。
「きじまさんを見た」と。

話はここまでです。
きじまさんは、いまだに犯人を探しているらしい。
話を聞いた人は「きじまさん」に訪問される、恐るべき伝言ゲームなのだ。
この話を聞いた数日のうちに、”きじまさん”を見るかもしれない。
もし、聞かれたら…「違う!」と、答える。
そして、その体験を誰かに話すこと。
”きじまさん”が犯人にたどり着けるように……。

と言いつつ、この怪談が「最恐」と呼ばれるのはここからです。
実はこの話、作り話なんだそうです。
そのチームの人が友達に、「なんだ、まだ信じとったんか?あれなあ、実話とちゃうねん」
と、言ったそうです。
”きじまさん”と言う人は存在しないらしいのです。

なあーんだ、と思いましたか?
本当に奇怪で奇妙なのは、この事ではなかったのです。


説明しましょう。
”きじまさん”が存在する可能性はないとしても、
「両腕両脚が切断され、全身が包帯で覆われて、片方の眼だけが露出している」
と言う情報があり、お気づきであろうか?
片方の眼とは言ったものの、左右どちらとは告げられていない。
目撃が誤認や錯覚の場合、偶然に正解と一致する確立は50%である。
ところが作り話で右・左と言ってないのなら、その証言の確率は50%であり、
半分は食い違っていなければならないのだ。
が、しかし。
寄せられた目撃証言は、一件の例外もなく一致しているのである。
「左眼に睨まれた」と…



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