校長先生のお話

原著作者:2011/02/02 23:24 ちゃこさん「怖い話投稿:ホラーテラー」
今から15年程前…私が小学5年生の頃のお話です。

前置きになりますが、私の通っていた小学校は、集落と言ってもいいような田舎にあり、当時の全校児童数は僅か30人程。


現在は木造からコンクリートの校舎に改築されましたが、
理由は急速に進む過疎化の末に学校として利用できなくなった際、老人ホームとして再利用する為だそうです。
恐らく現在の在校生数は10人を切っているでしょう。

その為、教師と児童との関係は差程の隔たりがなく(むしろ児童からすれば友達のような感覚で接していました)、
行事の準備で下校が遅くなれば、先生方が児童を車で家まで送ったりと、なかなか地域と密接した関係だったと思います。

私を含め、5年生が取り分け大好きだったのは、校長先生でした。
担任は忙しく、度々外出もしていた為(恐らく教頭になる為に、色々やる事があったんだと思います)、
複教科は代理の先生が務めていました。
ですが代理の先生も出勤する曜日が決まっていた為、どうしても空いてしまった時間は教頭や校長の出番なのです。
代わりに授業をしてくれていたわけではありません。雑談をしに来てくれるのです。
雑学、子供時代の話、創作の昔話…児童等のリクエストに応えて、何でも話してくれました。

その中でも人気だったのが校長先生の『怖い話』。
実話だから、尚更怖い。面白い。
今回は、その中でも一際怖かったお話をしたいと思います。

文章にしてしまうとあまり怖くないかもしれませんが、私の文章力の未熟さ故ですので、ご了承下さい。
ここから、校長先生の語り口になります。

俺がまだ新米教師だった頃の話だ。
教師になったばかりで右も左も分からないまま、昼間は授業、夜は勉強…ただがむしゃらに毎日を生きてた。
そんな俺は、5年の担任を受け持っていた。

ある日のプールの授業中。
1人の男子児童、Aが近付いて来た。Aは授業態度は真面目だが、内向的な性格の少年だった。

『先生、相談があるんです』
今思えば、休み時間や放課後になれば職員室に閉じこもりっきりで、忙しそうにしてる俺を捕まえるのは大変だったのだろう。
夏休み直前になり、焦ったAは、プールの授業の自由時間を狙ったのだ。
だが、自由時間とはいえ仮にも授業中。

日々の忙しさで苛々も募っていた俺は、
『今授業中だから、後な、後』
と、Aをないがしろにしてしまったのだ。
そして俺は、その“後”をすっかり忘れてしまい、夏休みに入ってしまった。

Aは、夏休み中に、交通事故で死んだ。

葬儀に参列した俺は、
『A、相談聞いてやれなかったな…すまない』
と申し訳ない思いだった。

夏休みも終盤に差し掛かった、ある日の蒸し暑い夜だった。
俺は、何か奇妙な音に気付いて目を覚ました。
『何だ…?玄関の方から音がするな』
当時の俺の住まいは平屋の借家だった。床の間から襖1つ挟んだ玄関から、奇妙な音がするのだ。

ギ…ギ…

俺は起き上がり、襖を開けた。
なんと玄関の引き戸が、半分程開いていたのだ。
先程の音は、引き戸が少しずつ開く音だったのだろう。

『風か…?』
たいして気にも止めずに、引き戸を閉めた。
ちなみに、今ほど物騒な世の中ではないから、鍵は常にかけていなかった。
そして俺はまた床の間に戻り、眠りについた。
つこうと、した。

ギ…ギィ…

またあの音がする!
風もないのに、何故!?
俺は瞬時に察した。
Aが、Aが相談に来たんだ!!

咄嗟に俺は部屋の隅にあったアコースティックギターを取り、きつく抱き締め、
タオルケットを頭からすっぽりかぶり、ガタガタ震えながら、

『うわーっ!A、俺が悪かった、悪かったから、来ないでくれ!頼む!!』
と絶叫した。
その刹那…引き戸が開く音が止んだ。


翌日、俺は学校に行き、当直だった年輩の女教師に昨夜の出来事を相談した。
こんな現象をいい大人が本気で怖がるなんてどうかしてる、と思われても仕方がない。
また今夜来られては堪らない。
とにかく、何か解決策を見出だしたかったのだ。

女教師は終始黙って俺の話を聞いてくれた。
そして、一通り話し終えた後、ようやく口を開いた。

『先生、お墓参り、行きました?』
意外な一言だった。
行ってない。

呆気に取られている俺を見ながら、女教師はにっこり微笑んだ。
『今からでも遅くないから、お線香とお供え物持って、A君のお墓参りに行きなさい。
そして、相談を聞いてやれなかった事を、お墓の前で謝りなさい』

俺は学校を飛び出し、その足ですぐさまAの墓に向かった。
墓前で手を合わせ、必死に謝った。
『A、本当にすまなかった…先生が悪かった…!』

その晩も、そしてそれ以降の夜も、Aは現れなかった。
そして夏休みが明けた。

あの夜の出来事が夢だったのではないかと思い始めていたある日のこと。
俺の隣のクラスの女子児童B子が、授業中に突然立ち上がり、天井を仰ぎ見、
『ギャアァ~アァアッ』
と絶叫しながら痙攣し、その場に倒れたそうだ。

B子はすぐさま病院に運ばれたが、幸い命に別状はなかった。
俺はその時、1つの仮説を立てていたのだが、その仮説が、偶然耳にしたB子のクラスの子等の噂話で確信に至った。
『Aって、B子のこと好きだったらしいぜ』
『あぁ、ずっと陰から見てたもんなアイツ』
『もしかしてB子が倒れたのってさ…』

そう…内気なAはB子への募る想いを同年代の子等には打ち明けられず、
頼れるお兄さん的存在だった俺に相談したかったのだろう。
だが相談を聞いて貰えず、その矢先不運にも事故で死んでしまった。
B子への強い想いだけがさ迷い…連れて行こうとしたのではないだろうか。

以上で校長先生のお話は終わりになります。
15年経った今でも、このお話は、色褪せる事無く私の心の中に刻まれています。
今まで、いろんな先生を見てきましたが、この怖い話を初め、校長室を溜り場にしてもニコニコし、空き時間には一緒に遊んでくれた校長先生。
離任式では自身の卒業式以上に泣きました。

今現在も変わらず、私の一番尊敬する恩師です。
ありがとう、校長先生。

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