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リビングの絵画

ゾッとする名無しさん@特選怖い話:2020/01/19 11:43 ID:9AVUpwOU

以前付き合っていた彼女と彼女の両親の話。

俺には以前付き合っていた女性がいた。
彼女とは出会い系アプリで知り合って1年くらい付き合ってた。
彼女は当時28歳で、彼女が30歳になるまでには結婚するか決めないとなーと漠然と考えてた。

そんな時に彼女から今度自分の実家にご飯食べに来ないかと切り出された。

俺たちは互いに神奈川に独り暮らしだが、彼女の実家も神奈川だった。
実家からだと勤務地の東京まで遠いという理由で彼女は独り暮らしをしていた(彼女の家と実家は1時間ほどかかった)

もしかしてプロポーズの催促かと少し勘ぐったが彼女から「あ、全然そういうんじゃなくて単に私が紹介したいだけ」と言われ、雰囲気的にも重くなかったのでそのままの言葉通りと受け取って了承した。
ただ初めて彼女の親に会うというのは緊張するもんで、俺は楽しみ半分怖さ半分と感じた。

彼女の家には日曜の夕方に行った。
俺のことは彼女から事前に家族に説明されており、その日俺たちは晩ごはんに鍋をいただく予定となっていた。
もちろんいきなり泊まりはハードルが高いので、次の日が仕事という理由を付けて食べた後は帰るつもりだった。
(だから金曜や土曜じゃなくあえて日曜に設定した)

彼女の家は駅から歩いて20分ほどの距離にあり、普通の一軒家だった。
家に入ると彼女の両親に迎えられた。

彼女の両親は50代くらいでどちらも優しそうな方たちで温かく迎えてくれた。
彼女は一人娘のため、今は実家に両親二人で暮らしているらしい。

そして着いて早々ではあったが、すぐに晩ごはんとなった。
晩ごはんはカニ鍋で奮発してくれてることが分かり、受け入れてくれようとしているようでありがたかった。
ただこの時からこの家の異様さに気づいてしまい、あまりご飯に集中出来なかった。

というのも俺達はダイニングキッチンで食べていたのだが、そこから見える隣の部屋のリビングにはテレビが無く、テレビが本来ある位置に大きな絵画が飾られていたのだ。
絵については詳しくないが、ズジスワフ・ベクシンスキーの絵のような不気味で陰鬱な雰囲気で真っ直ぐこちらを見ている女性が描かれていた。
その女性の絵は血を流していたりといったグロテスクさは無かったが、見ていると心が闇に染まっていくように感じた。

俺は絵の不気味さにビビり、最初彼女の幼少期の話を聞いたりして絵には触れずにいた。
しかし途中で話題に尽きかけ、思わず「なんだか、すごい絵ですね」とその絵について話した。

すると笑顔で彼女の母親が説明してくれた。

母親「この絵はね、私たちが新婚旅行でフランスに行ってる時に偶然見つけたの。
もちろん絵なんて買うつもりで行ったわけじゃないけどもう一目惚れしちゃって。
絵自体の価格は問題なかったんだけど、日本に持ってくるのに別送する必要があってちょっと大変だったわ」

俺は何故リビングにテレビではなくその絵が堂々と飾られているか聞くべきか一瞬悩んだが人の家の文化だと思って聞かなかった。

そしてご飯を食べ終わると、おかしなことが起こった。

先に席を立ったのは彼女の父親だった。
「ゆっくりしていってね」と彼は言い、そのままリビングに向かった。
そしてそのままゆっくりと腰を下ろし、絵を眺め始めたのだ。

彼女「わたしもご馳走さま」

続けて彼女も席を立って食器を流しに置くと、父親の隣に腰を下ろした。
つまり、彼女も父親と共に絵を眺め始めた。

何をしているのか理解出来なかった。

まるで当たり前のように、テレビでも見るかのように絵を眺め始めたのだ。
文章だけでその異様さが通じるか分からないが、じっと絵を眺める二人は先程まで一緒に鍋をつついてた二人に見えなかった。

テレビが無いことやそこに絵が飾られていることは人の家の文化として受け入れようと考えていた。
しかしずっと昔から持っている絵を晩ごはんの後に見るという行為は自分の中の常識からあまりにもかけ離れていた。

母親「さて、そろそろ鍋も片付けてリビングでちょっとゆっくりしましょうか。
   片付けは私がやるから、俺くんはゆっくりしてね」

俺があっけに取られていると、そう言って彼女の母親が晩ごはんの片付けを始めた。
俺はまだ理解が追いついていない状態だったが、選択肢が無いためフラフラとリビングに向かった。
そして、彼女と父親の後ろの方にそっと座った。

何も話さず座った。
ただ絵を眺めていた。

俺も絵を見ようとしたが、絵自体の不気味さと今の状況の不気味さで直視出来ず震えていた。
震えているうちに彼女の母親がリビングにお茶を持ってやってきて、皆にお茶を配り、俺の隣に腰を下ろした。

そうしてその家にいる全員で絵を眺めた。
ただただ、絵を眺めた。

たまに父親から彼女に最近の仕事について話をふったり、俺のことを聞いたりした。
笑い声もたまに出た。

皆で絵を眺めながら。

おそらく彼女の実家ではそれが当たり前の光景なのだろう。
絵を眺めるのが当たり前であるが故に誰も説明しないんだろう。
俺も必死で気にしないようにして、目の前のものはテレビだと無理やりにでも思うようにしていた。

そして小一時間ほどリビングで過ごした後、そろそろお暇しますと言って彼女と共に家を出た。
彼女の両親からは「またいつでも遊びに来てね」と、来たときと同じく温かい言葉をもらった。

それから俺は彼女と別れた。
理由は仕事に専念したくて一度距離を置きたいということにしたが、適当だ。
彼女には何も言っていない。
誰が正しいのかなんて分からない。

俺にはあの文化を受け入れる度量は無かった。
出来るだけ他人について尊重する主義だし否定する気もないが、どうしても感覚的に異常だと思った。
だがその異常だと思う感覚は俺が異常なだけで彼女たちが当たり前のなのかもしれない。
どちらが異常だったとしても俺にはその現実を受け入れられる勇気がない為、有耶無耶にしている。

この体験を経て、俺は何が正しくて何がおかしいのかの判断に自信が無くなり正常な判断が出来ないようになった。
仕事に支障をきたすようにもなり今はもう仕事を辞め大阪の実家に戻っていて、たまに非正規雇用で生きていく分くらいの金を稼いでいる。
自分が慣れ親しんだ実家だと比較的心が落ち着くというのが戻った理由だ。

なんにも不思議なことなんて起きていないのかもしれない。
異常な人なんて誰もおらず、何か勘違いしているだけかもしれない。
だが俺の心を壊すには十分な体験だった。

俺は今後人を受け入れることが出来ないと思う。
他の人達はみんな当たり前のように人と関わって生きているが、何故そんなことが出来るんだろう?
相手が自分と同じように考えていると、あるいは違ったとしても少しくらいだろうと何故思えるんだろう?
理解が全く及ばず受け入れられない考えを持った人が今も隣で笑っていると思わないんだろうか?

俺はそれに耐えられない。

まとまりがなくて済まないが、俺が体験した話でした。

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