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眠りと恐怖の境界

コオリノ@特選怖い話:2019/02/24 11:11 ID:ootLqqjU

これは私の母にまつわる話です。

私の母はとにかく睡眠が深く、例え近くで花火大会が催されようが起きません。

目覚まし時計もほぼ意味がないみたいで、何時も精確な体内時計で起きる兵でもあります。

さて、私が高校生だった頃、

蒸し暑い夏の日、夜中に喉が渇いた私は、部屋を出て台所へと向かいました。

途中、母の部屋を通り掛った時、

襖が人一人分ほど開いていた母の部屋に、明かりが点いたのです。

ふと部屋を覗くと、母が寝巻き姿で立っていて、明かりの紐を手に持っていました。

ああ、母も蒸し暑くて起きたんだなと思い、私は台所で冷たい麦茶を二杯入れると、戻る途中、母の部屋に寄りました。

するとさっきまで点いていた明かりは消え、部屋は真っ黒になっており、微かに見えるふくらんだ布団の中からは、母の、

「スゥースゥー……」

という寝息が聞こえてきました。

なんだ、また寝ちゃったのかと思い、私は暗闇の中、何とか持っていた麦茶をお盆ごと枕元に起き、そのまま部屋を出ました。

部屋に戻り電気を消そうとした時でした。

「パチッ」

と、小さな音が開けっ放しの扉のほうから聞こえ、そちらに目をやると、母の部屋から明かりが漏れ出ているのが確認できました。

あ、また起きたんだ。

一度寝たら中々起きない母にしては珍しいな、などと思いながら、私は部屋の明かりを消して、ベッドに横になりました。

するとまた、

「パチッ」

部屋の外に目をやると、母の部屋の明かりが消えていました。

また?

何してるんだろうと少し頭を捻ったものの、眠たかった私は、それを無視して目を瞑ったのですが、

「パチッ」

またもや明かりのスイッチ音が聴こえたのです。

しかも今度は直ぐに、

「パチッ」

と消す音が……。

目を開け扉の方を向くと、

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

何度も何度も母の部屋から漏れ出る明かりが点いたり消えたり、その度に乾いた音が交互に鳴り響きます。

流石におかしく思った私は、電気でも壊れたの?と、少し大きな声で呼びかけながら、母の部屋へと向かいました。

部屋の前に着いた瞬間、

「パチッ」

明かりが点きました。

さっきと同じで、部屋の中央には紐を手にした母が立っていました。

そして直ぐに、

「パチッ」

明かりが消えます。

その時でした……足元から何か、ゾワゾワとした物が這い上がってくるような感じがしたのです。

それは、私の体にまとわりつくようにして、首元まで登ってきました。

数秒たち、それが激しい悪寒なのだという事に気がつきました。

寝起きとは思えないほど目を見開き、私は暗闇の母の部屋を凝視していました。

ゴクリ、と鳴らした喉の音が、静まり返った部屋の中に響きます。

最初に部屋を覗いた時に気がつくべきでした。

今しがた、明かりが点いていた母の部屋の中央に敷かれた、布団の中で眠っていた人物に。

母は、起きてなどいなかった。

じゃあ、部屋の真ん中で立っていた人物は……誰?

あれは寝巻きだったか?そもそも顔は?頭の中で、母の顔が歪に曲がって識別できなくなりました。

次の瞬間、

「スゥースゥー」

母の寝息が聴こえてきました。

暗闇に慣れてきた私の目に、中央に立つ何者かの人影が、ふっと目に止まったのです。

瞬間、私はその場で反転し、泣き叫びながら部屋を飛び出していました。

直後に、

「パチッ」

と音が鳴り、部屋の明かりが背後から射していましたが、私は振り返る事なく、父の部屋へ逃げ込み、眠っていた父を乱暴に揺さぶり起こしていました。



以上が、私の母にまつわる話です。

一応あの時母に確認はしたのですが、朝まで一度も起きていないと一蹴されました。

ちなみに部屋の明かりは、父親が確認に行った時は点けっぱなしになっていたとの事です。

おそらく私が寝ぼけていたんでしょうね。

そうだろう、そうに違いないと思い、あれから数年たったある日、同じように真夜中、母の部屋から、






「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

「パチッ」

と鳴った時がありましたが、震える眼をギュッと閉じ、布団の中に潜り込んだのを、今でも鮮明に覚えています。

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