市役所の同僚 - 桜金造

電話がありましてね。
僕の友達の市役所に勤めている幼なじみ。

「なんだい?」

「悪いんだけどさ、今から付き合ってくれないかな」

「うん、どうしたの?」

それで話を聞いてみたら、彼の同僚がずっと役所に出てこない。
それで心配した上司がその男のところへ電話をすると、どうも言っていることがおかしい。
「女が寂しがるから外に出れない」とか、どうも何を言っているのか要領をつかめない。
それで上司が友達に

「お前家近所だろ。
 帰りにちょっと寄ってみてくれないか」

と言われ、友達は上司には了解したものの、やっぱり気味が悪いんで僕のところへ連絡をしてきた。
「いいよ」って言って二人で行きました。

木造モルタルの何処にでもあるアパートです。
二階建てなんですけど、彼の部屋は二階でした。
僕の友達がノックをします。
中から「開いてるよ」と声がした。
開けます。

小さなアパートです。
開けてすぐそこがトイレでしょ。
ちょっとした板の間があって、食器棚があって、その向こう側が流しです。
六畳一間。
夏だというのに彼は雨戸もカーテンも締めきって真っ暗な中にこちらを向いて座っていました。
こたつの中に入ってこちらを見ている。
僕の友達が

「皆心配してるよ、お前のこと。
 なぁどうしたんだよ?
 そんなに部屋に篭りっぱなしだと体にも良くないしさ。
 金造くんも連れてきたから、今から三人で飯でも食いに行こうよ」

そう言うとその男が

「うーん、女が寂しがるからよ。
 外にでは出れないんだ。
 女が寂しがるから」

俺と友達は顔を見合わせて探しました。
狭い部屋ですから。

(女なんか居ないよな・・・)

(うん、いない)

「おい、女なんか居ないじゃないか。
 なぁ外に出よう」

と、その男が「居るじゃないか」と言った。

「いや、居ないじゃないか。
 何処に居るっていうんだよ」

「そこに居るじゃないか」

玄関のところに立っている我々のすぐ傍を指差すんです。
恐る恐る見てみると、そこには食器棚があるだけ。

「いや、居ないじゃないか」

「そこに居るじゃないか」

見るとそこは壁があって食器棚があって隙間がほんのちょっと何ミリか空いている。
まさかと思ってそこを見てみると、髪の長い女が赤いワンピースを着てその隙間に立っている。

最初はポスターか何かかなと思った。
それにしてもそんな食器棚の隙間にポスターを貼ることがおかしい。
もう一度よく見てみるとその赤い服を着た女が、スッとこちらを振り向いた。
二人で走って逃げていくらか行ったところで

「見たか!?」

「見た!」

と言って振り向いた。
それから僕の友だちもその男のことを一切口にしなくなりました。

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