彼女からの留守電 - 伊集院光

僕の中学校時代の同級生でそんなに仲がいいやつではなかったんですけど、
そいつには三年近く同棲した彼女がいて、その子が交通事故で死んじゃったんです。

それでその事故で死んじゃったのを知ったのはすごくショッキングな知り方で、
同棲していた彼女が働いていて、男が家に帰って留守電を見ると、一件伝言が入っていたんです。
伝言を聞いてみると、

『今から帰るから、今日絶対待っててね。
 あっ

 キーーーー ドンッ!


 ツー・・・ツー・・・ツー・・・』

という感じで、まさに交通事故のその時が留守番電話に入っている。
それからそいつはやっぱりショックで、家から出られなくなっちゃって仕事とかも来なくなってしまった。
俺の友達でそいつとすごく仲いいやつがいるんですけど、たまに電話を掛けてあげたり、たまにソイツの家に行ってあげたりするんだけど
「大丈夫、もう少しで働き出すから」という感じで、すぐにドアを閉められちゃう。
でも明らかにご飯とかも食べている様子もないし、そいつのお母さんとか友達とかが作ったお弁当とかを引っ掛けてあげないと
死んでしまうんじゃないかと思うほどだったんですって。

一年くらい誰もそいつが表に出たのを見なくなって、勿論仕事もしなくて。
ずっと彼女と同棲していた部屋に住んでいたんですが、それからお母さんとか友達が皆で説得して、

「彼女とずっと一緒に住んでいた部屋に住むのは辛いだろうし、
 彼女自身もあなたがこんなに想っていたら浮かばれないから、引っ越ししな」

という感じで半ば強制的に引っ越しをオーケーさせたんです。

それでその時は俺も呼ばれて、一日でやってしまわないとまた未練が残るからということで友達たち五、六人で手伝いに行ったんです。
ワンルームと一つ部屋が付いているくらいの小さな部屋なんですけど、やっぱり片付けしていると写真とか出てくるじゃないですか。
その度にソイツがまた落ち込んでしまうんですよ。
俺らは盛り上げ係だからまたそれを一生懸命盛り上げて、それでまた片付けをしていると、二人で旅行に行って買った置物とか出てくるじゃないですか。
そうするとまた落ち込んでしまう。

それで普通であれば三時間で終わるようなところを丸一日掛かってやっと包装とか終わって、ダンボールに入れて
じゃあもう部屋を出ようという時に、電話がいきなり鳴り出したんです。

『今から帰るから、今日絶対待っててね。
 あっ

 キーーーー ドンッ!


 ツー・・・ツー・・・ツー・・・』

というのが誤作動なのか流れちゃったんです。
彼女のものを何も捨てられなかったからその留守電の声もそのままだったんですよ。
俺らも含めてすごくその場はシンとしてしまって、十分くらい誰も話せないような状態になってしまった。
皆タバコ吸ってくるからとか言って外に出て、そいつが部屋に一人になったんです。

俺らは外に出て一番電話の近くに居た奴に

「馬鹿じゃないのか、電話触るなよ。
 分かんだろうがよ、こういうことになるのが。
 余計なことすんなよ」

そうしたらその電話の近くに居た奴が

「俺、触ってないよ。
 だってあの電話さ、電源も抜いてるし、もう止まってるんだからさ・・・」

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