深夜の学校 - 渡辺徹

学校に関する話なんですけど、俺が行っていた学校の話です。
俺の故郷というのは田舎の方でして、行っていた学校というのはものすごく歴史が浅くて、俺達が入った時で創立十年目くらいだったんです。
ですから田んぼばかりのところを埋め立てて出来た学校だったんです。

周りにうちが何も無いところで、それでこの学校というのは本当に不思議なことがたくさん起こっているところでした。
例えば俺は生徒会長をしていたんですけど、生徒会の仕事をしているとどうしてもイベントがあったりで夜遅くまで残って作業をしているわけです。
それでその時ももうまもなく体育祭が近かった。

随分遅くまで作業にかかって、夜の十時頃まで生徒会室で仕事をしていました。
生徒会室というのは二階にあるんですけども、一階から卓球をしている音がするんです。

カコン カコン カコン カコン

(何だよ、卓球部の奴らこんな時間までやってるよ)

卓球部というのは昇降口の傍のフロアを使って練習しているわけです。
それで帰りに我々は二階から一階に降りていくわけです。
そうすると卓球部が練習しているそのフロアがあるんです。

カコン カコン カコン カコン

音はずっと聴こえている。
それで階段から降りて、そして踊り場があって、切り返すように降りて行く途中でいきなり

カコン カコン カコン カコッ

音が止まったんです。

(あれ、なんだろう)

それで下まで降りて行ったら昇降口もそのフロアも真っ暗なんです。
それで卓球台も畳んで片付けられている。
そんなに短い間に片付けられるはずがない。
そんなのが前触れのようによくありました。

実は学校に合宿所がありました。
まぁ田舎で広い敷地を持っていましたから、随分と立派な合宿所だったんです。
そこは大体部活で利用するんですけども、折角そういう建物があるからということでクラス別の合宿というのもそこでやったわけです。
皆の親交を深めるべく、我々のクラスもそこで夏休みに合宿をした。

夏だから当然皆で盛り上がりたい。
男女共学でしたから、女の子と親しくなりたいのもあって、当然肝試しをするわけです。
それで計画をしていましたら、担任が「駄目だ、それは駄目だ」と頑なに拒否するんです。
その先生は若い先生だったんですけどね。
俺たちは当然先生に言いましたよ。

「先生、これはメインイベントなんだよ。
 男女二人で歩くのもこれしかないんだから、やらせてくれよ」

そうして先生を強引に押し切る形で肝試しをやったんです。
それで俺も勿論女の子と遊びたかったんですけど、タイプというのもあるのかな、皆を驚かす側の責任者になりました。
脅かす何人かでグループを組んで、色々と脅かす計画を立てました。

俺は体育館の床下と言いますか、軒下のところに隠れていて、歩いていた人を脅かすというのが俺の役割だったんです。
違う友達はもうしばらくそこから歩いて行って校舎の裏側に行った時に非常階段が外に出ているその二階のところからコンニャクやら何やらをぶら下げて
真っ暗なところを歩いてくる人にうまく顔のところにぶつけるという係をやっていたんです。

それでそろそろ暗くなってきたし、準備をしようということで我々が先に所定の位置に着くわけです。
スタンバってそこに座った途端にあの広い体育館の電気が中でフワッとつくんです。
急に明るくなったんです。
それで、タタンタタンと、何かが走る音がする。

(おいおいなんだよ、これから肝試しなのに。
 明るくなったら駄目じゃないか)

「おい駄目だよ」と言ったら電気が消えるんです。
それでもうそろそろかなと思って所定の位置にスタンバるとまた電気がつく。
冗談じゃないよと思って文句を言いに行こうと思い、電気を調整する調整室のところに行こうとしたら鍵がかかっていて開かないんです。
でもその部屋はそこしか入り口が無いんですよ。
でもそこは鍵が掛かっていて開かないんです。

(一体誰が中で鍵を閉めたり電気をつけたりする奴がいるんだ)

そうしましたら、例の非常階段からコンニャクを下げる係をしている男の叫び声が聴こえたんです。

「どうした!」

もしかしたら落ちたりしたんじゃないかと思って、俺はそこに駆けつけたんです。
そしたらそいつが血相を変えて階段を飛び降りるようにして走ってくるんです。

「徹! 徹!」

「なんだよお前、どうしたんだよ」

「とにかくあっちに行こう! あっちに!」

それでとにかく階段から離れました。

「何なんだ?」

「俺は二階でスタンバって、コンニャクやらの道具を準備していたら上から

 『おい、おい』

 って呼ばれる声がする。
 でも自分は準備に忙しかったからそれを無視していた。
 でもまた

 『おい、おい』

 と呼ばれる。
 それでこの声は完全に上だと思って二階の非常階段から上をパッと見たら、
 三階の非常階段から身を乗り出しているほっかぶりをした農民の格好をした人が『おい、おい』と声を掛けている。

 一体なんでこんなところに居るんだろうと思いながら、はい、と返事をしたら、その人が『人の家で何をやっているんだよ』と言ったんだ。
 そしたら上から身を乗り出していたその男が空中からフワッと浮きだした。
 それを見てビックリして逃げてきた」

嘘だろと大騒ぎをして一旦合宿所の方に急いで戻ってこの事情を言った。
そしたら担任の先生が真っ青になって、中止ということになったんです。
それで「お前らは一歩も外に出るな」と。
先生が何でそんなにこだわるのか聞いてみると、

学校が出来た頃は先生たちも交代で宿直として学校に泊まることがあった。
夜に見回る、今で言うガードマンの代わりですね。
その宿直で先生が見回りをしている時に、何人もの先生が夜中にほっかぶりをした姿で廊下を歩く、
しかも上半身しかない、平行移動で階段を歩いて行く姿を何度も目撃してきたって言うんですね。
それが理由で当直制が無くなったんだと。

「多分お前らはそれを見たんじゃないか」という話になって、その日の予定は全て中止になりました。
そんな学校でした。

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