エレベーターの話 - 木原浩勝

四角い窓が開いてあるエレベーターの話です。
あるお父さんが単身赴任で長い間一人暮らしをしていたんです。
それで久しぶりに家に帰った時に娘さんにこんな話をしたそうです。

お父さんは七階に住んでいるんですけど、今朝帰ってくる時にエレベーターに乗ってドアが閉まってそのまま六階、五階と降りていくんですが、その丁度六階に差し掛かった時に六階の廊下が見えたんです。
そうしたら女の子がエレベーターの前でエレベーターが降りていくのを覗き込んでいる。

エレベーターは六階に止まることなく降りていくんですが、(今の子なんだろう、乗らないのかな、何だか気持ち悪いな)と思っていると、今度は五階の廊下が見えてきた。
五階を通り過ぎる時にまた女の子が現れてエレベーターの中を覗き込む。
でもその時は幽霊だなんて思ってないですから、(随分足の早い女の子だな)くらいに考えていたんですって。

四階、三階、二階すべてでその女の子が覗いているんですって。
怖いなと思ったのはその女の子が各階で覗き込んでいることもなんですが、自分がエレベーターの中に乗っているのに自分のことは全く見ていないことなんです。
(一体あの女の子は何を探しているんだろう)と思ったそうです。
そうして一階に着いたんですが、お父さんはなかなか降りれなかったそうです。

「お父さんそんなの見間違いじゃないの?」と娘が聞くと、

「いや、見間違いじゃない。
 だって単身赴任中にそれを見たのは三回目だから」

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