マンション - おぎやはぎ小木

一週間ぐらい前の話なんですけど、僕が以前住んでいたマンションの住人に偶然街なかで出会ったんですよ。

「小木さん引っ越しちゃったんですね!」みたいに話しかけられたんです。
全然会ってなかったんですけど話しかけられて「引っ越したってことは、やっぱりあれが出たんですか?」と聞かれたんです。
「え、何の話?」みたいに僕もなって、それを聞いてきたあちらも「え、あれじゃないんですか?」みたいな話になってね。

「いや、てっきりあれが出たから引っ越ししたんだと思ってました。
 実は僕もあれが出たからそこから出て、周りの住人もあれが出てマンションを出ていったんです。
 だからてっきり小木さんもそれで出たのかと思いました」

以前ラジオでも話したんですけど、確かに俺が前に住んでいた時にすごくスリッパの音がうるさかったんです。
俺の部屋は階段の上に寝室があるネゾネットタイプだったんですけど、夜中の二時か三時にスリッパの歩く音がしてたんですよ。
あと、夜中に何か物を落とすパンパンという音がしたりとか。
階段を少し駆け登ってくるような音がしたりだとか。
そういうのが何だかうるさい音っていうんですかね、そういうのがあったんです。

その時に僕がした対処というのは、そこの寝室は階段なんですけど引き戸になっていて、そいつが下でパタパタやってる時にこっそりその引き戸のところまで行ってその足音が階段を登ってきた時にだいぶ近づいてきたなと思ったらバーン!とその引き戸を開けて

「うるさい!
 今何時だと思ってるんだ!
 いいかげんにしろよ!」

と言うものだったんです。
僕が怒鳴るとその音は無くなって、それ以降何も無かったんです。

で話は戻るんですけど、その以前の住人に「うちは何にも無かったけどな」と言ったんです。
それでその人の話を聞いたらそのマンションにはその人に家の前に中庭的なものがあるんですよ。

それでその人が中庭を箒ではいたりしていると、箒の位置が少しずれていたりすることがあったんですって。
自分の部屋の前に箒を置いておいて、少し草むしりなんかをしていると、箒が別の方を向いていたりして。

初めのうちは気のせいかと思ったんですけど、結構(あれ?)って思うことがあったんですって。
でも僕もその話を聴いてて、まぁそんなことかくらいに聴いてたんですけど、そしたらその人が

「いや、それくらいだったらまだいいですよ。
 決定的にこれはダメだってことがあったんですよね」
って言うんです。

ある時にすごく急いでいてスリッパを揃えたりせずに歩いたまま脱ぎ捨てたみたいな形で出ていったことがあって。
それがすごく自分の中では記憶に残っていたんですって。
いつもはきちんと揃えていたのに、その日は適当に脱ぎ捨ててきたというのが記憶に残ったんですね。

それでその人は一人暮らしなんですけど夜に戻ると、そのスリッパが綺麗に揃えておいてあって、元々ベージュのスリッパなんですけど、色が変わってしまうくらいにずぶ濡れになっていたんですって。
そこでその人はもう駄目だと思ったんですって。

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