天狗神社 - 木原浩勝

中部地方のある山の上に、通称で天狗神社という呼び名がついた神社があるんです。
去年アニメの映画で神隠しの映画が流行りました。
今の世の中神隠しという言葉は滅多に使われないですから、この機会に神隠しというものを伝えられるような取材が出来ないかと私は色々と探していたんです。

そうしていますとおよそ三年ぐらい前から中部地方を中心に天狗神社で神隠しがあったという噂が広まりつつあるのを知ったので、何か核となるようなきっかけとなる話があるのではと思ったんです。
調査をしているうちにこの噂の元になったであろう体験をした人に行き当たったんです。
それでその時取材できた時の話です。

ある人が町内の友だちを誘って「何処か心霊スポットに行ってみない?」という話をしたんです。
「いいね行ってみよう」と相手も言ったので一緒にその中部地方の天狗神社に行ってみることにしたんです。

真夜中に車を走らせ、山の中腹に車を停めて、そこから長い階段を登っていったんです。
ずっと登っていって山の頂上に出た。
懐中電灯を持って色々回ってみたんですが、別に特段何も無いんです。
三人は「何もないね」「何も出ないね」と口々に話をします。

「ねぇ帰る前に一服でもしていこうか」

ライトを照らすとベンチが見えたので「あそこに座って一服しよう」ということで三人はベンチに腰を掛けたんです。
「何だこのまま帰るのもねぇ」「何だかねぇ」なんて話をしながら三人はタバコに火を付けて一服し終わったんですね。

「これからどうしようか」と一番端の人が言いかけて一緒に来ていた人の方を向くと、反対の端の席の人と目が合ったんです。
「あれ?」とお互い顔を見合わせて、フッと見ると真ん中の人の腰から下が消えていくのが見えたんです。
そしてまたフッと見ると、たった今吸い終わった煙の跡がふわっと上に舞っていくのだけが見えたんです。

たった今まで真ん中に居た友達が居なくなっているんです。
二人は慌てて立ち上がってその友達の名前を呼びました。
叫んでも叫んでも何も返答がないので「うわっ」と二人は走り出して階段を駆け下りたんです。
それでそのまま二人は帰ってしまった。

その当時というのは仲間内の家に泊まり込んで家に帰ってこないというのはさほど珍しいことではなかったんですね。
だからその友人が消えてなくなった後、三人でドライブに行って友人が消えてしまったとは言えなかったんです。
だからずっと言えなかったんですけども、親は親の方で二、三日泊まり込んで帰ってこないというのがあったのであまり気にしなかったんですね。

けれども三日経って四日経って五日経って、電話の一本もかかってこないのはおかしいということで捜索願が出されたんです。
それでその捜索願が出されて今年で三年目になるんです。
その真中に居た友人はまだ見つかっていないんです。

天狗神社で消えたというのはご両親は知らないんです。
一緒に居た二人も同じ町内に住んでいますから、戻ってきたという話があればすぐに分かるんです。
でも彼が帰ってきたという話も誰かが見かけたという話もいまだに無いんですって。

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