麻雀 - 師匠シリーズ

898 :麻雀 1/4:2006/02/22(水) 19:51:17 ID:CqBHiC0Y0
師匠は麻雀が弱い。もちろん麻雀の師匠ではない。 
霊感が異常に強い大学の先輩で、オカルト好きの俺は彼と、傍から見ると気色悪いであろう師弟関係を結んでいた。
その師匠であるが、2,3回手合わせしただけでもその実力の程は知れた。 
俺は高校時代から友人連中とバカみたいに打ってたので、
大学デビュー組とは一味違う新入生として、サークルの先輩たちからウザがられていた。 
師匠に勝てる部分があったことが嬉しくてよく麻雀に誘ったが、あまり乗ってきてくれなかった。 
弱味を見せたくないらしい。

1回生の夏ごろ、サークルBOXで師匠と同じ院生の先輩とふたりになった。 
なんとなく師匠の話になって、俺が師匠の麻雀の弱さの話をすると、
先輩は「麻雀は詳しくないんだけど」と前置きして、意外なことを話し始めた。 

なんでもその昔、師匠が大学に入ったばかりのころ、健康的な男子学生のご多聞に漏れず麻雀に手を出したのであるが、
サークル麻雀のデビュー戦で、役満(麻雀で最高得点の役)をあがってしまったのだそうだ。 
それからもたびたび師匠は役満をあがり、麻雀仲間をビビらせたという。 
「ぼくはそういう話を聞くだけだったから、へーと思ってたけど、そうか。弱かったのかアイツは」 
「いますよ、役満ばかり狙ってる人。役満をあがることは人より多くても、たいてい弱いんですよ」
俺がそんなことを言うと、
「なんでも、出したら死ぬ役満を出しまくってたらしいよ」と先輩は言った。 
「え?」
頭に九連宝燈という役が浮かぶ。 
一つの色で、1112345678999みたいな形を作ってあがる、麻雀で最高に美しいと言われる役だ。
それは作る難しさもさることながら、
『出したら死ぬ』という麻雀打ちに伝わる伝説がある、曰く付きの役満だ。 

もちろん僕も出したことはおろか拝んだこともない。ちょっとゾクッとした。 
「麻雀牌を何度か燃やしたりもしたらしい」 
確かに九連宝燈を出した牌は燃やして、もう使ってはいけないとも言われる。 
俺は得体の知れない師匠の側面を覗いた気がして怯んだが、同時にピーンと来るものもあった。 
役満をあがることは人より多くてもたいてい弱い・・・さっきの自分のセリフだ。 
つまり、師匠はデビュー戦でたまたまあがってしまった九連宝燈に味をしめて、
それからもひたすら九連宝燈を狙い続けたのだ。 
めったにあがれる役ではないから普段は負け続け、
しかし極々まれに成功してしまい、そのたび牌が燃やされる羽目になるわけだ。 
俺はその推理を先輩に話した。 
「出したら死ぬなんて、あの人の好きそうな話でしょ」 

しかし、俺の話を聞いていた先輩は首をかしげた。 
「でもなあ・・・チューレンポウトウなんていう名前だったかなあ、その役満」
そして、うーんと唸る。 
「なんかこう、一撃必殺みたいなノリの、天誅みたいな」
そこまで言って先輩は手の平を打った。
「思い出した。テンホーだ」
天和。
俺は固まった。 
言われてみればたしかに天和にも、出せば死ぬという言い伝えがある。 
しかし、狙えば近づくことが出来る九連宝燈とは違い、
天和は最初の牌が配られた時点であがっているという、完璧に偶然に支配される役満だ。 
狙わなくても毎回等しくチャンスがあるにも関わらず、出せば死ぬと言われるほどの役だ。
その困難さは九連宝燈にも勝る。
その天和を出しまくっていた・・・
俺は師匠の底知れなさを垣間見た気がして背筋が震えた。 
「出したら死ぬなんて、あいつが好きそうな話だな」 
先輩は無邪気に笑うが、俺は笑えなかった。 

それから一度も師匠とは麻雀を打たなかった。

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