不思議なトンネル

この話は実に生々しい話なんですよ。
何処から話したらいいか考えているんですが・・・。
というのも今年の夏の初めに、テレビ番組でジャニーズJrのメンバーと共に心霊スポットに行ったんですよ。
その中の一つで東京と埼玉の接している辺りのトンネルを回ったんです。
この場所にどうやって行くかというと、東京から一度埼玉へ出て、埼玉の方から入るんです。
そこは古くからあるトンネルで、非常に珍しいんです。
何が珍しいかというと、現在使われているトンネルがある上に、旧トンネルがあるんです。
申し訳ないんですが、トンネルの名前は言えません。
知っている方はもちろん知っていると思います。

この旧トンネルの上に、更に旧々トンネルもあるんです。
その昔、セメントを掘り出して、そのトンネルを通って運んだという場所なんですが、
そこへ番組のロケで行ったんです。

現在のトンネルはなんの問題もない普通のトンネルで、大きな道路が走っています。
そこからちょうど枝分かれするように、旧トンネルがあるんです。
50年前のトンネルなんですが、入り口に杭が打ってあって車が入れない。
人と自転車は中に入れますが、そのトンネルを使っている人は居ないって話です。

山の間を繰り抜いたような場所に、ぽっかり口を開けたようにトンネルがある。
闇の中だから何処からトンネルか分からない。
それで、このトンネルにまつわる話というのは、トラックが埼玉県側から通り、
車が東京側からも入ってくると、狭いトンネルの中をお互いスピードを出すもんだから、
途中で慌ててハンドルを切って事故が起こるというものです。
あまりに何度も事故が起こるもんだから、そのトンネルを通行止めにしているという話です。

でもそれはおかしい。
行ってみると確かにトラック2台がようやくすれ違えるようなトンネルなんです。
そんな狭いトンネルでスピードを出すはずがない。
それでそのトンネルについて調べてみたんです。
実際に行ってみたんですが、東京側から走っていくと、途中で何だか息苦しくなる。
岩を繰り抜いたトンネルなんですが、何だか嫌な感じがする。
それで、半ばをちょうど過ぎた辺りにくると、その辺りの壁に幾つもぶつかった跡があるんです。
ちょうどトラックのバンパーがある辺りにです。

その時わたしは思ったんです。
おかしい。
トラックとトラックが来て、お互いがハンドルを切ってぶつかったなら、
反対側の壁にも同じような跡があるはずなんです。
でもそんな跡は向こう側の壁には無い。
何処でぶつかるか分からないのに、全て同じ場所に傷があるんです。
これは絶対何かあるなと思った。

それで更に調べてみると、あることがわかったんです。
これはトンネルの特性なんですが、トンネルの中を入って行くと
岩で出来たトンネルですから音が反響するんですよ。
車のエンジン音がトンネルの中に響くと、まるでうめき声のように聴こえるんです。

うぅううううぅう

運転手さんは暗い中を運転している。
すると突然トンネル内でうめき声のような音が聴こえてくる。
怖いなと思っていると、

ドンッドンッドンッ

何処からか音がする。
運転している中、何処かから叩かれている。
なんだか気持ち悪い。
バックミラーを見ると、ミラーの中にそのトラックに張り付いた血だらけの男が見える。
思わずハンドルを切り、壁にぶつかってしまうというんです。
私はどうやらこっちの話のほうが合っていると思うんです。
そんな旧トンネルにJrのメンバーを連れて行ったんです。

メンバーはそのトンネルの話を知らないんですが、撮影を始めるとみんな具合が悪くなっちゃった。
そして撮影が続行不可能になってしまった。

みんな引き上げたんですが、プロデューサーとディレクターが私のところにやってきて
「稲川さん、どうしましょうか?この上の、旧々トンネルに行ってみますか?」

テレビとしてはその映像が欲しいんですよね。
不思議なのは、Jrの皆は「上の方が気持ち悪い」って言うんですよ。
彼らは旧トンネルの更に上に、旧々トンネルがあるなんて知らないんですよ。
でも皆が口をそろえて「上が気持ち悪い」と言う。

そうなんですよ、問題はこの旧トンネルじゃなくて、上の旧々トンネルなんです。
それで私と一緒に行ったのがJrの丸山くんと村上くん。
村上くんはリーダーですから責任感が強いんです。
「僕行きますよ」と言って一緒に来たんですよ。

旧々トンネルには細い道をずっと登って行くんですが、当時は馬を使って荷を運んだんですね。
どんどん行くと鬱蒼とした木が生えていて空も見えない状態。
そこに大げさな程のバリケードが築いてある。
ここはすごいなと思いながらも入って行くと木々の向こうに小さなトンネルが見えた。

それでトンネルそのものは入り口がレンガ造りできれいなんです。
でもフェンスと金網で入れないように覆ってあるんですよ。
入り口が無い。
普通はそういう風に覆われていても、何処かから入れるように入り口があるもんなんですよね。
それが無い。

ところが探していくと、誰かがフェンスを切って入ったような場所があったんで、私達もそこから入った。
その時は何人か居たカメラマンさんも具合が悪くなっちゃってて、唯一一台だけ一緒に来ていたんです。
他のカメラマンは皆車で寝込んでいるような状態。
この撮影が終わったらすぐに引き上げようって話になってたんです。

私と丸山くんで真っ暗な闇の中を見ていたんです。
時間は夜で辺りは真っ暗。
何も見えるはずがない。
でも何かが中で動いているような気がする。
私が「丸ちゃん、中で何か動いてるね」と言うと、
「えぇ。稲川さんも見えますか。動いてますよね。」と返してくる。

少し遅れて村上くんも来た。
「何ですか?」
彼がそう言った時に何か黒いものがこちらにやってきたんです。
ちょうどホースの中を水が流れていくように、突然空気の塊のようなものがこっちにやってきた。
その風が私達の方へ来た時に、我々の居る位置から、7・8メートルほど向こうに

うぅううう!!!!

という音が聴こえたんです。
あれには驚いた。
人間はすごいなと思ったんですが、
村上くんが「うわあぁあぁあ」と恐怖しながら逃げたんです。
彼はすごく運動神経が良い。
体が何とか逃げようとするのか、空中を浮いているように見えるほど素早く走っている。
空中を走るようにしながら、ドサッと落っこちた。
人気アイドルですから怪我なんかしたら大変なんですが、もがきながら逃げていった。

丸ちゃんと私はその場にただ立っていた。
向こうがまるで「おい、待ってたよ」という感じなんです。
「入ってみる?」と丸ちゃんに聞くと
「はい」と返事。
そして私達は金網の中を入っていった。

下は泥が溜まっていた。
途中まではレンガなんですが、途中からは岩だった。
すごいのはレンガが垂れ下がって今にも落ちてきそうなんです。
その間から鍾乳石が垂れているんです。
赤いレンガに白い鍾乳石。
黒ずんでいるような場所もある。
人間の内臓のような気がしましたね。

気味が悪いなと思った。
ワゴン車一台も通れない幅。
天井も低い。
真ん中あたりまで歩きながら、大体この辺りが中心かなと思ったんですが、すごいんですよ。
何だか体が震える。
この感覚は何なんだろう。
風がない夜中に何だか音がするんです。
これは帰ったほうがいいかなと思ったんですが、それでもそのまま行ったんです。

カメラマンさんが後からついてくる。丸山くんも来た。
それで、トンネルの反対側に出たんですよね。
ようするに、旧トンネルで埼玉県側から東京側へ来て、旧々トンネルで埼玉県方面へ出たんです。
道はあるんですが、木々が倒れていたりして原生林のような状態ですよ。
なんだか気候が違うというか、夜中なのに白ずんでいるんです。
白い霧のようなものが立ち込めていて、周りがよく見えない。
すごいなと思っていたら、後ろで丸山くんが
「稲川さん、稲川さんダメです。立ち上がれません。上も見えない」
その声で振り向くと、トンネルがあって真っ暗なんです。
下を見ると丸山くんがしゃがんでいる。

トンネルの周りは綺麗にレンガで出来ているんですが、その周りは鬱蒼とした草が生えている。
高さは1メートル近くあるような草が生い茂っている。
それがまるで人の顔に付いている髪の毛のようにザワザワと揺れているんです。
ゾクッとした。
「丸ちゃん、もうだめだ。これ以上は行けないね」
そう言って我々はまた旧々トンネルを引き返したんです。

そして私も同じように具合が悪くなってきた。
トンネルを東京都方面へ出て
「ここは一体どういうところなんだろう」と聞いたんですよ。
私もある程度のことは知っていたんですが、その時にあることを知ったんです。

これは、覚えている方も随分いらっしゃるかと思いますが、
もうだいぶ月日が経った話で、連続幼女殺人事件というものを覚えていますか?
生々しい話で、話のもとっても嫌なんですが、幼い女の子を殺してバラバラにして、
死体を焼いて骨を親元に届けた事件があったんです。
当時私は朝の番組をやっていて、その犯人が許せなかった。
私にも子供が居るわけだ。
人を育てていくって大変なことなんだ。
それを、罪のない子供を殺してバラバラにして焼いて
骨を親御さんに送りつけるなんて人間のすることじゃない。
私は犯人を許せないと、仕事を忘れるくらいにテレビで訴えかけていましたよ。

次の週にテレビ局に行くと、局のお偉いさんが待っていた。
警視庁のお偉いさんも来ていた。
「稲川さん、少し時間よろしいですか?
 実は先週話をした件で、犯人から手紙が来ているんですよ。
 これは、明らかに貴方に対する手紙です」

それで、テレビ局のお偉いさんが
「稲川さんどうしますか?
 稲川さんはコメンテーターだからいくらでも話が出来ます。
 番組中に、このことについてまた話しますか?
 それなら、テレビの方で時間を作ります」

警察の方では
「稲川さん、これは犯人が分かっていない事件です。
 貴方の身近な人かもしれない。
 ご家族の方は我々がきちんとお守りします」

「いや、守っていただかなくて結構です。
 守らなくても結構ですが、私、きちんと今日言いますから」
そう返しました。

しばらくして犯人が掴まったんです。
警察からも連絡をいただきました。
局からも報告が来ましたよ。
犯人の車の中や家には私の恐怖ものの本だとかビデオがあったそうです。
他にも随分色々なものが見つかったんですが、彼はどうやら心霊ファンだったそうなんですね。

それで話をまた戻しますが、実は警察が調べたその時に犯人が何を自供したかと言うと
彼がその幼女殺人事件を思い立ったというのは、今我々が居るトンネルの中だと言うんですよ。
犯人は宮﨑勤と言うんですが、この男が心霊スポット周りをしていたんですね。
それで、来てはいけないこのトンネルに来てしまった。
我々が入った金網、切られてあったと言いましたよね。
これは彼が切ったんですよ。
そしてトンネルに入ってしまった。

彼の自供によると、トンネルの中を歩いていて途中まで行くとちょうど中間点くらいで
ふっと頭の中に、自分のが幼い女の子を殺さないといけないと、思ったそうなんです。
彼は何故だか突然それを思い至ったんですね。
それで警察が犯人を捕まえに行った時に彼は逃げたんです。
山狩りをして彼を発見したんですが、その場所というのがこのトンネルの中だったんです。
このトンネルの、ちょうど真ん中あたり。
彼はうずくまっていたそうです。
一人ではこのトンネルの中はとてもじゃないけど居られない。
そんな場所に彼はずっと身を潜めていたんです。

私は一体何なんだろうと思った。
それでまた私、調べたんですよ。
そしてあることが分かったんです。

というのもこのトンネルの東京川の入口なんですが、
ちょっと行くと、家が1軒建っているんです。
今は壁が全て剥がされて骨だけになっているんです。
ただ屋根だけは乗っているんですがね。

話によると、ここは元居酒屋だったそうです。
おじいちゃんとおばあちゃんと娘と孫娘の4人で居酒屋をやっていたそうです。
この山の中ですよ?
人の通るような道は無い。
これは恐らくトンネルにセメントを運ぶ人たちの為の居酒屋だったんでしょう。

そんなある日、男がナタを持ってやってきて、訳もなくお爺さんとお婆さんと頭をかち割った。
そして逃げる母親も殺された。
女の子は傷を負ったんですが、トンネルの中へ逃げた。
真っ暗なトンネルの中へ。
夜の出来事だったんですが、昼間でも暗いトンネルに逃げて、男も追ってきたそうです。
そしてトンネルの中央で全く何も見えない中で女の子の頭をかち割った。
宮崎勤が「子供を殺さないと」と思いついた丁度その辺りで。

これは大変申し上げにくいんですが、罪は罪なんです。
彼の件は勿論罪なんです。
だから決して彼を弁護しているわけじゃないんです。
霊のせいにするわけじゃない。
でも、何だかこの場所には不思議な力が働いていたんじゃないかと思うんです。
それでも彼は罪を償うべきです。

それでJrの皆と帰ったんですが、なんだか気になった。
具合は悪いんですが、その居酒屋を見に行ってみた。
椅子があり、居酒屋だと分かりましたよ。
壁紙が全て剥がしてあって、中が分かりました。
何故か床板まで剥がされているんです。
床板を剥がした広間に、真ん中に四角いものがあるんです。
板で打ってある。
あれはなんだろう。囲炉裏か何かかな?と思ったんですが、それにしては不自然なんですよね。
床よりも低い。
入る瞬間、どうしようかと考えた。
トンネルの中でも色々あったんで悩んだ。
でも私は見てみたくなった。

私は一人元居酒屋の中へ行った。
言いようもなく寒気がする。
それは、囲炉裏じゃなかったんです。
井戸だった。
その時にフッと思ったのは、この井戸の底に誰か人が死んでるなと思ったんです。
そこは何かの因果が巡り巡っている場所なんでしょうね。
入っていけない場所、人が犯しては行けない場所というのは、どうやら本当にあるようなんですよ。

取材が終わった。
もう皆、具合が悪くて動けない。
私はマネージャーと一緒に「お疲れさん」と言って、
シェビーバンという大きな車の助手席に座った。
何だかすごく息苦しい。
まだ外は暗いけども、朝の風を浴びて走ろうと思い、窓を開け肘を出した。
車が走りだした。

「今回の撮影きつかったな・・・」と思っていると、肘をぐっと掴まれ、引っ張られた。
これには驚いた。

家に帰ってサンダルを脱いだ。
このサンダルには先程のトンネルの土がついていますよね。
あれ、洗ってこればよかったなと思いながらサンダルの裏を見ると信じられないことが起こった。
サンダルの底が腐っていたんです。
思い出のあるサンダルなんで、中野にある靴の専門店へ行き張り替えてもらいましたけどね。
どうやら世の中には我々が自分で解決できない理解し難い不思議な現象というのが本当にあるんですね。

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