真っ赤な男


これもまあ不思議なんですがね…
知人を通して、横浜のディスコのほうから怪談のライブをしてくれないかって頼まれたんですよ。
それは私が全国ライブのツアーをする以前の話しなんですがね。

たまにそういう事もしていたんで、「ああ面白そうだね。いいね」って一つ返事で受けてしまったんですがね。
ところがそれからどれ位経ってからだったかな…
私は大阪の番組が終わるとそのまま飛行機で羽田に帰ってくるんですね。
それで羽田に着いて車に乗りながらボーっとしていると、頭の中に映像が浮かぶんですよ。

その映像っていうのはディスコなんですよね。
黒い色をしてて、ちゃんと丸い舞台もあるし、ミラーボールもある。照明の位置もわかってる。丸い鏡もあってね。
非常に具体的なんですよ。しばらく行くと鏡の間から楽屋口が見えて中に椅子も見えるんですよ。

それでうちのスタッフに、
稲「いや、これこれこういう映像が見えてさ。これってもしかして今度ライブするディスコかなあ…」
ス「そこに行った事あるんですか?」
稲「いやないよ。横浜のディスコは。」
ス「でもずいぶん細かに状況が見えてますよね?」
稲「ああ…だから不思議でね。なんか気になるんだよね…」
なんて話しをしてたんですよ。

それでまた次の週も大阪から帰ってきて、羽田から車に乗って帰る途中にまたふっと浮かぶんですよね。
それはディスコのフロアがあって、鏡の間からこの前までは楽屋口が見えたんだ。今度は楽屋の中を自分の目が動いて見えてるんですよ。
そうするとそこはね、化粧前ってメイクアップする机がついてて、その前には鏡があって、黒い椅子が並んで置いてあるんですよ。
向こうを見ると、少し開いた隙間からDJ席が見えるんですよ。
あらっと思ってまた動いていくと、今度は間から受け付けが見えたりするんですよね。

自分は寝ているわけじゃないんですよ。ボワッとはしているけど、ハッキリとそれが見えるんですよ。
なんでこんなものがハッキリ見えるんだろうと思って、またスタッフに言ったんですよ。

稲「俺今こんなものが見えたんだよ。これは明らかに楽屋とDJ席なんだけどね、」
ス「行った事がないなら、雑誌か何かで見たんじゃないですか?」
稲「いやいや、そんな事はないね。覚えがないからね。」
ス「なんだかそれ気味悪いですねぇ…」
稲「うんおかしいよね。なんだか気になるんだよなあ…」
そんな話しをしてたんですよ。

それでまた羽田について車に乗っている時にフワッと見えたんですね。
それはっていうと、広いフロアがあって周りは全部鏡なんですが、そこで男が踊ってるんですよ。黒い影が。
それをなぜか私が見てるんですね。でも私の存在がないんだ。

で、その男が踊っている周りが鏡なもんだから、その男が並んで見えるんだ。当時そんなディスコが流行りましたよ。
一人の男が何重にも見えるんだけど、それを見ているとその中に一人真っ赤な男がいるんだ。

そんな訳がないんだ。黒い男が鏡に写って見えるなら全員が黒いはずなのに、なぜか赤い男がいるんだ。

(うわ…気持ち悪いな…)って私思ってね、スタッフに言ったんですよ。

稲「どうも気持ち悪い。悪いんだけど、あんた見に行ってくれないか?それでもしも私が見たのと同じような店だったら、悪いけど俺この仕事おりたいね。」
ス「ええ…なんかあまりいい感じしませんよね…」
稲「ああ、なんだかわからないけど、これ絶対いい事ないよ。悪いんだけど行ってくれる?」
ス「わかりました」

うちのスタッフがそこに行って、帰ってきたんですよ。青い顔してるんですよ。
ス「いや…驚きましたよ。いや本当に言った通りの店なんですよ。本当に行った事ないんですか?見た事ないんですか?」
稲「ああ、絶対に行った事ないし、見た事もないよ。」
ス「でもだって、気持ち悪い位にそっくりでしたよ。で、私もいい感じしないんでその話しをしたら向こう何も言わないんですよ。」
稲「そう…じゃあ改めてあちらに行ってちゃんとお断りしような」
ス「ええ、はい。」
っていう話しになったんですね。

行かない訳にいかないですから。でもね、それはもう私のライブの一週間前なんですよ。
チラシもポスターも出来て、配られちゃった後なんですよね。
普通そういう時って絶対にこちらに責任ありますよね。それで私行ったんだ。
これは絶対に普通じゃないからと思って出かけたんだ。

それでそこにちょうど向こうのスタッフの方がいたんですね。
稲「あ、どうも」
ス「あ!稲川さん。来週はどうも」
稲「ああ…あのさ、ここは昔なにかあったの?」
ス「いやそうじゃないんですけど…」
稲「ああそう。ここに勤めてどれくらいになるの?」
ス「いや恥ずかしいんですけど、まだ勤めたばっかりで三日目なんですよ。」
稲「あらそう。じゃあ古いスタッフの方いる?」
ス「いや稲川さん、不思議なんですけど、ここ古いスタッフの方っていないんですよ。みんなすぐに辞めちゃうんですよ。よくて二週間。でもほとんどの人は一週間で辞めちゃうんですよね。」
稲「どうして?」
ス「いや稲川さん、出るらしいんですよ。私はまだ見てないんですけど…」
稲「どんなものが出るの?」
ス「私とちょうど入れ違いで辞めたスタッフがいるんですけど、その話しを聞いたらば…
朝方客がいなくなったんで掃除をしてた。
と目の前にふっと誰かが立つんで、(まだ客いるんだ)と思ってみたら、それ稲川さんね…全身真っ赤な男だったっていうんですよ。
そんなやついないでしょ?その人それで辞めちゃったっていうんですよね。話しだけ聞きました。」

当たってるじゃないか…と思ってね。それで今度はオーナーさんにお会いしたんですよ。
この方はもともとはモデルさんでとても綺麗な方でね、でも歯を少し折っちゃってるんですよ。
で、口元を手で少し隠しながら話すんですけどね。

話していましたらマネージャーも出てきましてね。
お断りしたいって話しをしたら、「ええわかりました」って一つ返事で私の事を許してくれたんですよ。
賠償も弁償も何もないんですよ。逆におかしいと思ってね…

そしたら向こうが、
「稲川さん、どなたか素晴らしい力のある霊能力者の方いらっしゃいませんかね?」って言うんですよ。
(あら、きたな…)と思って、「何がありました?」って聞きましたら、

実はこのお店をやってからろくな事がない。スタッフにはけが人や事故を起こすものもいる。
で、そのモデルさんだった若い綺麗なオーナーさんもね、このお店を出て車に乗った瞬間に車がスピンしてぶつけて、
歯を折ったっていうんですよ。

ありえないんです。そんなスピンなんて…って言うんですね。

あまりに悪い事が続くんで、たまたま人づてに聞いた広島にいる霊能力者の方に連絡をしたらば、
「じゃあお店の写真を下さい」って言うんでお送りしたんですが、すぐに突き返されてきた。
悪いけども、とてもじゃないけど私はこの店の面倒は見れません。こんな恐ろしい所はない。

そう言われて、それから怖くてしょうがないんです。

「で、そこに今回この稲川さんの話がまとまったんですが、そうですか…ここはやっぱりあるんですね。稲川さん。」
って言われたんで、私何も言えなくなってしまったんですね。

で、話しは済んだんですが、このままじゃあまりにも申し訳ないって事で少し調べてみたんです。
それでわかったんですよね。

実はこの建物というのは、このオーナーのお父さんが建てた建物なの。お父さんは不動産の仕事をしていて。
でもこの建物やディスコが出来る以前はずっと更地だったっていうんです。
長い年月ですよ?ここは横浜ですよ?

なんで更地だったのかっていうと、このあたりでかつて暴動があったっていうんですね。
その暴動でたくさんの人が殴り殺された。それは戦時中の話しだそうですがね。

それで殴り殺されて散らばった死体。
それをそのままにしておけないから、警察が始末をしなさいと。

で、たまたま空き地があったから、その死体を持ってきた。
持ってきたけど腐ってくるし汚いからどうにかしろと言われたんで、
なんとその空き地でいくつもの死体を焼いたんだっていうんですね。
だから誰もその土地には手をつけなかった。

でも、そのオーナーのお父さんがその土地をたまたま買ってビルを作ったって話しを聞きましたね。

いや時代が変わっても、そういった人の恨み、想い、怨念というのは霊となって、その地にずっと居着くんですよね。

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