ママの知人の男


私の仲のいい友人で、元Jリーガーの山田さんという方がいるんです。
この方私の話にもちょくちょく出てくるんですがね。

現在仙台の方に住んでいらっしゃって、たまに二人で会って話をしたりするんですがね、
この夏に会いましたら、面白い話をしてくれましたね。

この山田さんが行きつけのバーがある。
それでそのバーっていうのは開店して日は浅いんですが、気の利いたつまみは出るし、軽い食事も出来る。
それで味もなかなかいいらしいんですよ。
それで元気のいい仲のいい女の子が何人かいて、値段もそう高くない。
それで山田さんは時間が出来れば行くらしいんですよね。

それでそんなある日なんですがね、仕事が終わってさぁ帰ろうかなぁと思ったんだけども、
ちょっとそのバーに寄ってみようかなあと思って店に寄ったわけ。

遅い時間だったんですがね、客は三人位いる。
けど山田さんが行ったら、3人のお客さんはすぐに帰っちゃった。

すると店の女の子が寄ってきて、「ねぇ怖い話してー、怖い話してー」って言うわけですよ。
山田さんは怖い話が好きで、いつもしてあげてたんですね。そして、その話は結構人気があるんですよ。
それでそこにママも加わって、みんなでワイワイ言いながら怪談話をしている。

けどカウンターの中で一人料理を作っているマスターが耳を塞いでいる。
「やめろよ、やめてくれよ。お願いやめてやめて」って言ってる。

このマスターは柄にもなく、そういう話が苦手そうなんだな。
というのもこのお店が終わった後みんなは先に帰っちゃうんですがね、このマスターはたった一人で、店の後片付けをするわけだ。

その後片付けの時に何だか知らないけど、人の気配を感じる。
それが妙に気持ち悪いんで、そういう話はやめてくれないかってことなんですね。

まぁそんなこんなやってるうちに、ママのほうが
「ごめんなさいねー、私用事があって帰らないといけないから」と言って帰っちゃった。

それでしばらくまた話をしている。
それで山田さんも、あぁもういい時間になっちゃったなぁ、帰るわーって言って帰っちゃったの。

2日ほど空いてまた山田さんがその店に行くとね、マスターが
「あのね、この間ね、山田さん帰った後、変なことがあったんですよ..」
って言って話してくれた。

というのは、山田さんが帰っていった、もういい時間ですよ。そろそろ閉店の時間。
これから客が来るとは思えないし、もう店を閉めようかということで、店の看板の明かりを消してね。

「ねぇ誰か待っててくれないかなぁ、すぐに終わらせるからさぁ、待っててくれないかなぁ..」
って言うんだけど、それをみんなゲラゲラ笑っているの。

その時マスターなんだか知らないけど胸騒ぎがしてたって言うんですよね。
やだな、一人になりたくないなって思ってたの。
ところが女の子たちは面白がって、ワイワイ言いながら帰っちゃったの。

マスターはたった一人残って、片づけ物をしてた。
するとドアが開く音がするんで、入り口を見ると、初めて見るみすぼらしい格好をした男が入ってきたので、
「あぁすみません、今日もう終わりなんですよ。」って言うと、
男が「一杯だけでいいから飲ませてくれ」って言った。

「いやーすみません。申し訳ないんだけれども、みんな片付けちゃったんで、今度お願い出来ますか?」って言うと、
自分はママの知り合いなんだって言ったそうなんです。

「あ、そうなんですか。実は今日ママ用事があって。ママ早めに店出ているんですよね。よろしくお伝えしておきますんで。」
そうマスターが答えると、

男がフッと名刺を出して渡してきたって言うんです。
それでその名刺を、じゃあ確かにお預かりしますって預かった。

翌日になって店が開いてママが来たんで、マスターが、
「実は昨日看板になってからママの知り合いだって方が顔を出したんですよ。」
って昨日の客の事をママに伝えた。

それで「名刺預かってますよ。この人なんですがね。」
ママに名刺を渡すと、ママが名刺を受け取って、名刺を見た途端に顔色が変わっちゃったの。

じーっと名刺を見ながら、
「あのね、この人ね、私が昔お店出す時に資金を出してくれた人なのよ。でもね、四年前に死んでるの..」って言った。


でも昨日の人はどう考えても冗談で言ってるようには見えなかったし、結構真面目そうだったし、嘘とも思えない。

そしたらママが、
「ねぇその人はどんな人だった?」って聞いた。

マスターは出来る限り思い出そうと思ってね。
背丈はだいたいこんな感じで、体格はこんな感じで、顔がこんな感じで、話し方はねぇ..
って言ってたらママがガタガタガタガタ震えてる。

ママが真っ青な顔で、「間違いないわ、あの人よ。」って言ったって言うんですよね。

でもそれ以来、その男の人は店に姿を現していないそうなんですよね。



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