山道の遭遇

故郷物の番組で、山形県と秋田県の境にある小さな村に行ったことがあるんです。
そこで撮影させてもらって、一応ロケが終わったんですよ。

後はいかにこの村が小さいかっていうのを山の上から撮ろうということになって、山に登っていったんですね。
カメラ関係と機材関係の人はロケバスだったんですよ。

私はスタッフと一緒にハイヤーだったんですね。
私の出番はもう無かったんですが、運転手さんが稲川さんどうします?
稲川さんも上に行って山の空気吸います?っていうんで私もハイヤーに乗ったんですよ。

それで運転手さんと、スタッフと私の三人でハイヤーで山道を登っていった。

途中で車を停めてふっと一息入れていると、
うちのスタッフが「すみませんけど小便していいですかね?」って言うんで小便しに行ったんですよ。
運転手さんの方も、私もいいですか?って言うんで、結局二人共降りていっちゃった。
それで、私一人で車で待ってるのもつまんないから、私も外に降りたんですよ。

それで私もついでに用でも足そうかなと思った。
結果的に三人とも用を足す話になっちゃったんですよね。
そのへんでやったっていいんですよ。男だから。山の中だし。

でも、何となく近くに小高い丘があったんで、そこへ上がっていったんですよね。
用をたそうとしたんだけどもなんだか落ち着かない。

それでまた少し行くと、今度は運転手さんが、何だか落ち着かないですって言うんです。
じゃあ、もうちょっと行こうかって先に行ったんです。

そしたら、もうそれ以上行けないんですよね。
雑草も辺りいっぱいに生えていましてね。そこよりも向こうの方は原生林なんですよ。

それで、結局そこで背中を向けて三人で用を足していましたら、
運転手さんが、稲川さん、あれなんでしょうね?って言うんですよ。

ふっと見ると向こうの雑木林にロープが張ってあるんですよ。
どうみたって松茸山じゃないし、なんであんなロープが張ってあるんだろうと思ってね。

不思議だよねぇ、あんなロープなんて話をしながら用を足し終わったんですよ。
運転手さんが帰っていく。
うちのスタッフが帰っていく。

それ、私も終わったんで帰ろうと思ったんですが、
雑木林のロープを眺めてね、真後ろへ五六歩下がったんですよ。
自分でもどうしてそんな事したのかはわからないし、不思議なんだけど。

そしたら脚が膝のあたりまで土の中に落ちちゃったんですよね。
うわっと思った。目の前は草だらけですよね。

大丈夫ですかー?って二人が走ってきたんで、
「いや、何かおかしいんだよ。脚がハマっちゃったよ。
土の中にハマっちゃってるんだよ。悪いけど上げてくれる?」

それで二人に手を持ってもらって上がろうとしたんだけども、上がらない。

稲川「いや何かおかしいんだよ。誰かに脚を引っ張られているようだ。」
2人「やめてくださいよ。そんな事言うの..」
稲川「いや、ほんとなんだよ。誰かが引っ張ってて上がんないんだよ。」

でも、ズボンが汚れちゃうと何かの時に差し支えますからね。
気をつけながらゆっくりと脚を上げていった。
でもやっぱり何かがぐっと私の脚を引っ張っているんですよ。

やだなやだな...と思いながらも脚をぐぐぐっとあげていったらね、
私の足首のところ細い黒いベルトが引っかかっているんですよ。

原生林ですよ?
雑木林ですよ?
雑草が生えているんですよ?

何でこんなところに...と思ったんですよ。他の二人もびっくりしている。

それでもう一つの脚も上げてみた。

上げてみたら違うんですよね。ベルトじゃないんです。
大きな黒いバックが出てきた。

ようするにバッグの持つ部分、それなんですよね。それがベルトに見えたんだ。
そのバックのチャックが少し開いていて中が見える。

書類のようなものが入っているんですよね。
これなんだろう?って言ったら、
運転手さんが、「稲川さんちょっと待って下さい」って言ってハイヤーに戻っていってね、無線で連絡を取っているわけですよ。

ちょうどそこへ山の上での撮影を終えたロケ車が降りてきたんです。
そしたら運転手さんがロケ車の人に稲川さんがコレコレこういうことでね・・・と説明したんですよね。

そうしていると観光課の方が飛んで来ましてね、稲川さんちょっと待って下さいと言って彼が警察に連絡を入れたんですよ。

それで私待ってましたよ。
警察来ましたよ。
それでこのカバンを渡した。

我々はそのまま次のところへ行ったわけなんだけども、連絡が入ったんですよね。
実は私が踏んづけたものはね、死体だったんですよ。

あのロープがはってあったっていいましたよね?
あれはその殺された死体が、そこにあるってことでロープを張ったってことなんですけども、
実はそのロープの中ではなくて、ロープから離れた私が踏みつぶしたそこに死体があったそうなんですよ。

穴を掘って死体を埋めますよね。バックがあるんで、それを上に乗せて土をかぶせた。
それで時間が経って雑草が生えたわけですよね。

ところは骨の方はっていうと中が空洞になっていたわけですよ。
そこへ私がやってきて踏み潰しちゃった。

警察が言ってましたけどもね、
もしも稲川さんが発見しなければずっとあの死体は発見されないまま終わっただろうなって言うんですよ。

偶然というにはあまりにも不思議ですよね。
何故そこまで行ったのか、何故私は真後ろに不自然にバックしたのか分からない。
これ偶然というよりも呼ばれたとしか思えないですよね...

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