『ドスンと音がして』

ドスン!とすごい音がして、体が激しく揺れた。
気がつくと、「俺今どうなっている?」と、隣で中野の声がした。

ふっと見ると中野は右側の眼球が飛び出ていて、顔の皮膚が垂れ下がっている。
喉の奥からウッと悲鳴をあげた。

と、遠くで人が騒いでいる声がする。
「こいつは、ひでぇな..」って男の声がした。

そして自分が事故にあったんだなって事がわかった。
中野に「お前大丈夫か?」って言おうとしたんだけども、喉の奥に何か詰まっていて声が出ない。

と中野が、「お前生きているか?」って言った。
その時もしかしたら自分は死んでいるのかな?って思った。
そして意識が途切れた。

ふっと目が開いた。ぼやーっと白い天井が見えた。
光が見えてきて、誰かが自分の名前を呼んでいることが分かる。
光を遮って誰か人の影が自分の顔の前に見えた。
そして覗きこんできた。
母親の顔だった。

それで自分は助かったんだとわかった。
で、その時になって何があったのか初めてわかった。

自分と中野は車に乗っていた。
そして建設現場に差し掛かった。
そこで交通規制があって渋滞になった。
その時に建設現場のクレーン車がバランスを崩して倒れてきた。
そして自分たちの車を直撃した。
中野は下敷きになって即死だったそうだ。

そんなはずはない。
アイツは自分に語りかけていたんだから。
そしてまたふっと意識がなくなった。

遠くで物音がする。
それがだんだんだんだん大きくなってきた。
やがてそれが電話の音だということに気がついた。
電話が鳴っている。だんだん大きくなってきた。
(電話にでなくっちゃ。でなくっちゃ。)
だんだんだんだん電話の音がでかくなってきた。
電話にでると、それは中野の声だった。

「お前生きているのか?」と聞くと、
「今からお前のところに行くよ」と言った。

途端にふっと目が覚めた。
夢か・・・。夢だったのか..。
病室の中はもう薄暗い。
窓の外は随分日が陰ってきた。

薬が効いてるのでまたふーっと眠りについた。
遠くで音がしている。
だんだん大きくなってきた。
やがてそれは電話が鳴っている音だということに気がついた。
電話が鳴っている。電話が鳴っている。
だんだんだんだん大きくなってきた。電話に出なくちゃ。
電話の音がだんだんだんだん大きくなってくる。

で、受話器を取ると中野の声がして、
「今オマエのところにきているんだ」と言って電話が切れた。

途端にふっと目が覚めた。
あー夢か・・・。病室はだいぶ暗くなっている。
窓の外はもう暗い闇が包んでいる。
あー夢かと目を瞑ろうとすると何かの気配を感じた。

誰かが居る。誰かが...。
辺りを見ると暗い壁のところに中野が立っているのが見える。
あれ、中野は死んだんじゃなかったっけ?と思った。

中野はゆっくりと自分に近づいてきた。
中野は右目の眼球が飛び出ていて、顔の皮膚が破けて垂れ下がっていて、血が滲んでいる。
だんだんと近づいてきて、近づきながら
俺今どうなっている?と聞いた。

黙っているとぐっと寄ってきて
自分を覗き込みながら、
「なぁ、俺と一緒に行こうや」
って言いながらぐっと手を伸ばしてきた。

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