女王のための歩道橋

この話は兵庫県の方の話だと思ってください。
そこに今は大学生なんだけど、当時は高校生だった仲の良い二人がいます。
彼らが兵庫県の高校時代に家の近くに心霊スポットがあったというんです。
最近は心霊スポットというのもブームになりましたよね。
色々テレビでもやったりしてますよ。
それで家の近くにそれがあるっていうんで、暇だから心霊スポットに出かけてみたわけですよ。
どんなもんかというので、冷やかし半分で行ってみた。

それでその心霊スポットはどういうところかというと、道路が一本走っているんです。
まぁまぁの広さの道路。
ところがこの道路はあまり使われていないっていうんですね。
どうしてこの道路が使われていないかというと、ずーっと真っ直ぐ行った先で道路が切れているんですよ。
それ以上先には道路が出来ていない。
道路が途中で無くなっちゃっているんですよ。
新しい道路ではあるんだけど、途中で切れている。

ところがこれはもっとおかしいことに、この道路は先が切れているにもかかわらず、歩道橋がかかっているというんです。
その歩道橋の手前には神社がひとつある。
小さな神社なんだけど、その道路から入っていけるわけです。
それで元々神社があったところに歩道橋を建てたもんだから、神社が歩道橋の影になって歩道橋に入り口が隠れて引っ付いているようになっているんです。
その神社が心霊スポットだと、仲間内では有名なんだそうです。

それでその二人組は夜遅くにその神社に行ってみた。
田舎のことですから勿論電気なんて付いていないですよ。
周りなんか真っ暗ですよ。
怖いもの見たさというやつです。
それで行ってみたら確かに気持ちが悪い。
鬱蒼とした木々が茂って、真っ直ぐ道があって、奥にお社がある。
そこに行くのは容易なことじゃないですよ、気持ちが悪くて。
二人でおい、気持ち悪いな。なんだか寒気がするなと話していた。

ところが私に連絡をくれた彼の方はその時は実際そういう風には思えなかったそうです。
彼が怖いと思ったのは、お社がある森よりも、むしろずっと続いている道路。
先でぷつんと切れているやつ。
歩道橋があるその道ですよ。
どうもそちらのほうが怖い。
それでそのことを友達に行ってみたら

「うん、言われてみれば俺もそんな気がしてきた。
 確かになんだかこっちの方が怖い気がするな。
 じゃあさ、そっちに行ってみる?」

それで二人は人があまり使っていないその歩道橋を使ってみた。
周りは誰もいないんですよ。
なんせ人家が無いんですから。
そこを夜中に二人でもってカンコンカンコンと足音を響かせながら登る。

「何でこんなものを作ったんだろうなぁ。
 道路なんか無いのに」

高いところに登ってあたりを見回してみるけどもやっぱり何も無い。
畑や森があるだけで何も無い。
真ん中をその道路が走っているっきり。

それで私に連絡をくれた方の彼が、やることもないし、何の気なしに歩道橋の欄干を叩いてみた。
すると、

カーン

という音が反響する。
それでまた叩くと、

カーン

と音が反響する。

「おぉ随分と音が響くなぁ」

それでそんな話をしていたら、叩きもしていないのに

カーン

と音がした。

「おいなんだよ、俺叩いてないのに」


「ハハハ、なんか科学的な根拠があるんだよ。
 大丈夫、何かに音が反響しただけだろ」

「うん、でもなんか気持ち悪いからさ、今日は帰ろう」

そう言って二人は帰った。
そんなもんですよ人間なんて。
怖いですから。

それで二人は高校を卒業してから、別々の進路があるわけですから、二人は離れていたわけですね。
ところが夏になると実家に帰郷するじゃないですか。
それで帰郷した時に二人はまた連絡を取り合って会ったわけです。
でも二人で会ったってつまらないですから、同じクラスメートだった女の子を呼ぼうという話になり、女の子を二人呼んだんです。
それで皆で話していると、度胸試しというわけじゃないですが、その時の話が盛り上がって

「そう言えばあの時、あの歩道橋で音がしたよなぁ」

「うん、したした!」

「じゃあさ、暇だしあそこにまた行ってみようか」

ところがその一緒に居た女の子のうちの一人が、とても霊感というか感が強い子だったそうです。
それで四人はそこまで行って歩道橋の上に立ってみた。
そうしたら感の強い方の女の子が

「私やっぱりここヤダ。帰ろうよ。
 ここは絶対に良くない場所だから」

って言うんだそうです。

「何か居るの?
 何か見えるの?」

「いやそういうわけじゃないんだけど、ここは絶対に良くない場所だから帰ろ。
 帰ったほうがいいって」

「大丈夫だよ、皆居るんだしさ」

その子が怖がるもんだから、なんだか面白くなってきてまた皆で歩道橋を上がっていった。

「なぁここだったよな、俺が叩いたら音がした場所」

「そうそう、ここ、ここ」

そうしてまた叩くと

カーン

と音がする。
音がやたらと響く。
もう一回叩くと

カーン

と音がする。
そうしたらまた叩いていないのに

カーン

と音がした。

「変だよなここ。叩いていないのに音がしたぞ」

「うん、私も聞いた聞いた」

「前もこうだったんだぜ」

そうしたらその霊感の強い女の子が

「ねぇやめよ、帰ろ?
 誰かが来てる」

「誰も来てないよ。
 だってさ、人も何もいないんだから。
 誰かが登ってきたら絶対分かるんだから」

「んーん、絶対に来てるから。
 もう帰ろ?」

「大丈夫だよ」

そう言いながら皆は反対の階段の方に歩いていった。
そうしたら女の子が

「嫌だ嫌だ、本当に来てる!
 まずい本当に来てる!
 嫌だ嫌だ嫌だ!
 ほら、本当にそこまで上がってきてる!」

他の三人はその子があまり熱心に言うもんだから怖いんですけど、だけどそんなことを笑って吹き飛ばしたいんで

「大丈夫だよ、大丈夫」

と言っている。
そうしたら

カツン・・・カツン・・・

という確かに誰かが登っている音がする。
でも歩道橋ですから、本来人が通るものですからね。
人が来たっておかしいことじゃないんだ。
だからきっと誰かの姿が見えるんだろうなと思い、そこで待っていた。

カツン・・・カツン・・・

確かに上がってくる音がする。
もうそろそろ頭が見えたっていいころです。
だけど姿は見えてこない。

何だろうと皆で顔を見合わせていると、その霊感のある女の子が体を震わせている。
そしてその子は半分泣きながら

「嫌だ、見えないの!?
 あそこに女の子が居るじゃない!」

「見えねーよそんなもの」

「居るじゃないそこに女の子が!」

そしてその子は泣きながら走ったもんだから、皆しょうがなく走って追いかけた。
なんだか分からなかったんだけど、でもその日はそんなことがあって解散となった。

それからまた二、三日してね、友達から連絡が来た。

「おい、あの歩道橋さ、何であそこにあるか知ってるか」

「んーん、知らない」

「ほら、この前あいつさ、女の子が居るって話をしてたじゃない?」

「あぁ結局何だかわからなかったけど、そんな話してたな」

「やっぱり本当に女の子が居るのかな?」

「え、なんで? 何にも見えなかったじゃん」

「いやさ、俺がちょっと聴いた話なんだけど、小学校六年生の女の子がいてさ。
 その子は学芸会で女王様の役をやるはずだったんだって。
 それでちゃんとした役だし、一生懸命にやろうと思ってあの道路は車も人もあまり来ないから丁度いいやということで
 一生懸命その辺で女王様の勉強をしてた。
 一生懸命にセリフを覚えてた。

 そこへ車がやってきた。
 車の運転手もまさかそんなとこに子供が居ると思わないから、かなりスピードを出してた。
 そしたら女の子に気付かなかった運転手が一生懸命女王様のことを勉強しているその子のことをはねた。
 それでその女の子は死んじゃったんだって。
 そのことがあってあそこに歩道橋を作ったらしいよ」

「え、あんなとこ通学路なんて無いのに?」

「うん、でもそういう話聴いたんだよ。
 やっぱり幽霊が出たのかな」

半信半疑の二人はまた見に行こうかという話になった。
女の子がただ怖がっただけかもしれないし、そんな話は後からついてきただけの話かもしれないじゃないですか。
でも行ってみようということで二人はまた行ってみた。
一人はまた帰っちゃいますし、一人はまた大阪に戻っちゃいますしね。

それで二人は歩道橋を登って反対側から降りてみた。
でも何も起こらない。

「別に何もねぇよなぁ」

「うん、でも確かにあの時足音を聴いたよな」

「確かに足音は聴いた。でもなんてことねぇよな?」

そう言いながら辺りを見ると、前に来た時は夜中だったんで分からなかったんですが、立て札のようなものがある。
そしてそこに文章のようなものが書いてある。
それを読んでみる。

『この歩道橋は・・・・・の為に、安全の為に作られました』

「あぁ、なるほどな。じゃあやっぱり事故はあったんだな」

「おい、これよく見てみろよ」

その友達が指さした先は安全の“安”の字の、ウ冠が消えている。
日数が立って消えてしまったんですかね。
そして安全の“全”の字の、上の山が消えているんですよ。
よくよく見返してみると

『この歩道橋は・・・・・の為に、女王の為に作られました』

となっているんです。

「おい、やっぱり女の子は居たんだな」

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