ベランダの男

私の学生時代からの親友がいるんですが、その親友が私にきかせてくれたんです。

私の親友は大阪の郊外に住んでいるんです。
場所はっていうと、大阪の人ならすぐにわかると思うんです。
有名な宗教団体があって大きな塔が建ってますから。

で、親友はその近くのゴルフ場によく行くんですが、
そこで親しくなった彼が話してくれたそうなんです。

っていうのはね、その話しをしてくれた彼は狭いマンションに住んでいたそうなんですよ。
でもしばらくして広いマンションに引っ越したもんだから、
みんなに「俺のところへ遊びに来ないか?」って言った。
まあ一人もんだから気は楽ですよね。

そうしましたら、三人の友人が、酒を持ったり菓子を持ったりしてやってきた。
それでなんとなしに三人はベランダに出て酒を飲んでた。
あれこれ話しをしているだけなんですが、それがなんだか楽しい。

そうこうしていましたらね、友人の一人が、
「おい、ここやけにカラスが多くねえか?」
って言った。

「うん。そうなんだよな。たまにカラスがベランダに降りてくるんだよ」
「カラスが?嫌だなーそれは。」
「うん。なんでカラスなんかが多いんだろうな。」

すると、それを聞いていた別の友人が、
「おい、これなんかガタガタいってるのは窓か?」
って言った。

「うん。確かになんか音がするんだよな。」
「ふーん…ちょうどここ角部屋だから、風があたったりしてガタガタいうのかね?」

彼の住んでいる部屋っていうのは、三階でね、結構風が強いんだ。

それでそうやってしばらく話しをしていたんだけど、段々とみんな疲れてきて、
壁によりかかったり、ごろごろと寝転んだりしはじめた。
みんなどうせはじめから泊まっていくつもりで急いでないですからね。

そして夜になった。
それでみんな、適当にごろごろしたまま寝始めちゃった。

と、しばらくして一人がトイレに立った。
他のみんなは、適当に寝転びながら喋ったり寝たりしている。

そうしてしばらくすると、トイレに立った一人がふすまを開けて、
「おい、俺今、変なものを見ちゃった…」
って言うんですよ。

「ん?変なもの?何見たんだ?」
「あのさ、隣にフローリングの部屋があるじゃないか?そこにベランダがあるだろ?」
「うん。」
「俺トイレに立ったついでに、景色でも見ようと思って、何気なく近づいたんだよ。」
「ああ」
「そうしたらさベランダに手すりがあるだろ?」
「うん。」
「そこのサンの下の隙間の所を男が掴んで、こっちをジーっと見てるんだよ…」
「嘘だろ?ここ三階だぜ?あんな所に足場なんてないしさ」
「嘘じゃない。本当だよ。嫌な顔でジーっとこっちを見てるのを俺見たんだよ。俺目あっちゃったよ…」

はじめは冗談か何かだと思ったんだけど、あまりにその友達が真剣だから、
みんな気になってそこへ行ってみた。

ガラガラと窓を開けてみるけど、やっぱり誰もいない。

「おいほら、誰もいないだろ?」
「いやいたんだって。俺見たんだから。」

でもみんなで見てもいなかったわけですからね?
その日はさほど気にしないで、みんな寝ちゃったわけですね。


次の日の朝、
「おーい…こっち来てくれよ」
昨日男の顔を見たってやつが叫んでる。

みんなが行ってみると、そいつがベランダの所へ立って、
「おい、これ見てみろよ?」
と言ってる。

彼が指さしているところを見ると、
ベランダの所に手すりがありますよね?そこが柵状になっているわけだ。
その一番下の端の所に五百円玉位の塊があって、
長い毛が何本もついている。

「おいこれ、なんだと思う?」
「なんだ…これ?」
「なんだろう?虫?生き物?」

そうしてるとその中の一人が、
「それ…人間の頭の皮じゃないか?」
と言った。

「おい…やめろよ気持ち悪いな」
「その毛は、髪の毛じゃないか?」
「気持ち悪い事いうなよ…」
「誰か同じマンションの人に聞いてみるか?」

そうしてみんなで部屋を出ると、ちょうど向こうから同じ階の奥さんがやってくるのが見えた。

「すみません奥さん!このマンションで何かありましたか?」
「え?このマンションで何か?そうねえ…ああ、事件がありましたよ」

「何があったんですか?」
「そうねえ…あなたが越してくる二、三ヶ月前かしら…七階から男の人が飛び降り自殺したのよ…」

「え…亡くなったんですか?」
「ええ…即死だったみたいよ」

その時一人が言った。
「おいそれだよ。それに違いないよ。いいか?七階から飛び降りるだろ?で、ここは風が強いじゃないか?
何かの加減で頭が下になってさ…ここの角部屋から出ているベランダの手すりに頭をぶつけたんじゃないか?
それで弾かれてぶつかって下に落ちて死んだんじゃないか?
遺書があるから自殺なんだろうけど、厳密にはその男は地面に叩きつけられて死んだんじゃなくて、
あのベランダにぶつかって死んでるんじゃないかな…。」

『とういうことはさ、その男が最後に見た景色っていうのは、おまえ、この部屋の中なんだよ』

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