落人たちの霊

もう終わったんですけど、私が長いことやっていた朝の番組がありまして。
当初は私は事件なんかのレポートをやっていたんです。
それで私と同じようにレポーターをやっている方が、私よりも年齢は上なんですが、たまたま同じ日に同じ方向に取材だったんです。
仲が良かったので、帰れるんだったら一緒に帰ろうという話になったんですよ。

それで私の方の取材はというと割りと笑えるような事件だったんです。
ただその方が行く現場というのは当時結構社会でも騒がれたんですが、栃木県のKホテルというところで出火が起こりましてね。
その火事でたくさんのお年寄りが亡くなられたんです。
それでその騒ぎの真っ只中に彼は取材に行ったんです。

私が取材が終わって連絡をすると、彼も丁度取材が終わったって言うんで、落ち合って一緒の電車に乗ったんです。
そうしましたら彼が

「純ちゃん、おかしなことってあるね」

そう言うんです。
事件自体は分かっているんですよ。
ホテル側の過失だってことです。
原因とかも全て分かっているんですが、

「現場に行ってみると新聞やテレビで騒がれている内容と何だか違うんだよね」

「どういうこと?」

「いやぁ、この話は使えないと思うんだけど、自分はどうやらこっちの方が本当じゃないかなって気がするんだよね」

・・・

どういうことかと言いますと、実はそのKホテルは火事で丸焼けになったんですが
そこに泊まっていたお年寄りが十三人焼け死んだんです。
ホテル側が避難の誘導をきちんとしなかったとか、そういう風な災害に向けての準備が出来ていなかったとか、
そういう話が世間一般では取り沙汰されていたんですけどね。
彼が現場に行ってみたら消防の人や警察の人が現場に来て調べている。
それで彼も取材をしていましたら、もう焼け落ちた建物をどかしながら調査に入ったら、あれ?と思った。

というのも、建物の敷地の跡が出てきたわけです。
そこにどう見ても墓石のようなものが見えているんですって。
地元の方が居たんで

「すみません、あれって墓石か何かのように見えませんか?」
と聞いてみた。

その地元の方は年配の方で
「えぇ、あれは確かに墓の跡ですよ」

「じゃああのホテルというのは、墓の上に立っていたんですか?」

「えぇそうなんです。
 増築したところが墓の上だったんですよね」

「え、じゃあその墓石っていうのは・・・」

「あぁ、ホテルを建てる時に工事の人が来て皆掘り起こして、ほら、あそこに丘が見えるでしょう。
 あそこに全部放り投げたんじゃなかったかな」

「それはひどいことをしたねぇ」

「いやね、実は私も思ってるんだけど、この火事っていうのは実は、人為的だとかなんだと皆さん言ってますが
 そういうものじゃないと私は思うんだよね」

「どういうことですか?」

「いや、昔の話になるんですけど、この土地へ平家の落人が逃げこんできたんだよ。
 それで当時というのは匿うと、匿った側も首を切られるような時代だったんだ。
 かと言って突き出したら後でどんな目にあうか分からないし。
 ほら、逃げこんできた側にも仲間はいるわけでしょ。
 それで当時の村人達は考えて、皆でこの落人たちに酒を飲ませて、楽しく話をして安心させておいて
 『蔵に泊まりなさい』ってそう言ったんだ。
 蔵にはたくさんの藁を敷いて、その上に布団を敷いた。
 それで落人たちは気持ちよくお酒を飲んで蔵の中へ入っていった。

 それを見て村人たちは外から鍵をかけたんだ。
 それに気がついた落人たちは叫びまわるわけだ。
 『助けてくれ』と、『よくも騙したな』と叫んだ。
 声は村のあちこちにまで響き渡ったけども村人たちは近寄らなかった。
 中には発狂したものも居たんだろうね。

 そうして放っておくとだんだんと静かになった。
 そうなってくると、蔵の隙間から中に火を投げ込んで蔵ごと焼き殺してしまったんだよ。

 ところがそうしたら何処からともなく蔵の中から白猫が飛び出してきた。
 燃えたまんまで駆けずり回ったもんだから他の家まで燃えてしまったって話があるんだ。
 これはきっと落人の祟りに違いねぇってことで、それで村人たちは考えて落人たちの墓を作って弔ったって話があるんだけどな。

 ところがこの土地を買ったあのホテルがさ、増築する時にそのお墓を全部どけちゃったんだよ。
 だからこの墓の跡っていうのは皆その落人たちの墓だったんだ」

「そうだったんですか」

「誰も見向きもしねぇから、こんな風になっちまったんだな」

「あれ、待ってください。
 お墓っていくつあったんですか?」

「あぁ、墓の数は13だよ」

「えっ・・・」

「今度死んだ人も13人。
 ぴったりと数が合うだろ。

 それでもう一つ話があるんだよ。
 今度の火事の時にもどっからか分からないけど猫が飛び出して、そいつは体を燃やしながら消えていったっていうのが、
 村人が何人も見てるって言うんだよ。

 俺は今回の件も祟りじゃねぇかなって思うんだよな」

「すみません。
 その移された墓っていうのも見に行きたいんですけど、その墓は何処にあるんですか?」

「あぁ、転がして捨てたところか?
 じゃあ俺が案内してやっから」

それで私の知り合いのレポーターはついていったわけだ。
墓がある丘に立ってみると、丁度眼下にホテルが見える。
と言ったってホテルはもう焼けただれた状態なんだけども、下に見えるわけだ。
フッと見ると、その墓は綺麗に13個並んでいるんで

「あれ、全然適当に転がしていないじゃないですか。
 きちんと並んでいるじゃないですか」

「いやぁ、これが不思議なんだよ。
 ただ墓石が転がっていただけなのに、誰も手入れなんかしていないのに今度のことがあってから見に来てみたら
 誰が直したのか知らねぇけど、きちんと13個墓石が並んでんだよ。

 それでほら、見てみろ。
 ずっとホテルの方を眺めているように見えねぇか?」

・・・

「純ちゃん、こんな話聞いたんだよ。
 この話を聞くとさ、この火事っていうのはただの事故とか過失っていうように私はどうも思えないんだよね。
 私はどうやらこの人が話してくれた話のほうが、本当のような気がするんだよね」

私もそんな気がするんです。
事件は事件として、事故は事故としてあるんでしょうが、
でもやっぱり祟りってあったんじゃないかなと思うんです。

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