R246の公衆電話BOX

今はもう携帯電話が普及していますよね。
皆さん携帯電話を使っていらっしゃいますよね。
それでもう公衆電話を見ることは殆ど無くなりましたね。
時々公衆電話BOXを見かけることはあるんですが、一体誰が使うんだろうなぁと思ったりします。

この話というのはまだ携帯電話が普及する以前、まだ皆が公衆電話を使っているようなそんな時代の話なんです。

大学生の仲の良い二人組、仮にAくんとBくんとしましょうか。
Aくんは東京の生まれ育ちでもって、実家から大学に通っているんです。
Bくんの方は地方から上京してきてアパートで独り暮らし。
この二人は馬が合ってとっても仲が良いんですよね。

Aくんの方は裕福なご家庭なんです。
自分の車を持っている。
だから暇を持ってあちこち二人で出かけるわけなんですね。
それでこの日も二人で車であちこちを回っていた。

別にあてがあるわけでもなく、ただブラブラとその辺りを走らせているんですが
東京へと戻ってくるともうだいぶいい時間になっていた。
この日はAくんもBくんのアパートへ泊まることになっているんです。
車は国道の246。
一般には"R246"と呼ばれる道路ですよね。
赤坂から青山、原宿を抜けて渋谷、そして三軒茶屋。
お洒落な街を突っ切っていく人気の国道なんですがそこを車が走って行く。

そうして走っていくうちにやがて辺りは静かな住宅街。
明かりもだいぶ少なくなってきた。
もう少し行くとBくんのアパート。

と、Bくんが
「あぁごめん、俺さ、部屋に全然何も無いんだわ。
 どっかに寄って何か仕入れていこうか」
と言った。

やがて小さなスーパーマーケットが見えてきたんでそこで車を停めて、
二人はあれこれと買い物をしたわけなんですね。
ビニール袋に食料品を買い込んで二人は店を出てきた。
車に乗り込もうとしてふと見るとBくんの視線の先、スーパーマーケットから少し離れた先に公衆電話BOXがある。
小さな明かりがついていて、中には若い女が一人居る。
見れば辺りに連れらしい人もいないし車もない。

Bくん「おい、あそこに女が居るぞ」

Aくん「あ、本当だ」

電話をかけているわけでもなく、国道の方をじっと見つめているんです。
二人共若い男性ですからね。
ちょっと興味をひかれて近づいていった。

そこにいるのはスラーっとした可愛い女の子。
横顔が見えているだけなんですが、なかなか整った顔をしているんです。
何をしているのかなぁと思いながらなおも近づいていく。
Aくんが「こんばんは」と声を掛けると、女の子がフッとこちらに振り向いた。

Bくん「どうしたの?」

女の子「電話をかけているんだけど、相手に繋がらないんです。
    帰ろうと思っているんですが、迎えが来なくて困っているんです」

Aくん「どこまで帰るの?」

女の子「この246を横浜方面に向かっていって、その途中まで帰るんです」

実はこのスーパーからBくんのアパートまではもうすぐなんですがね、
可愛い女の子だし、こんなところに一人で置いていくのも気になった。

Aくん「良かったら送って行きましょうか?」

女の子はニコッと笑って頷いた。
それで三人は車に乗ったわけだ。

車に乗り込むと皆若者ですから、色々と話も弾んだ。
それで色々と話をしていると、なんとこの女の子はAくんとBくんの通っている大学の新入生だということが分かった。

Aくん「えー、俺らの通っている大学の新入生なんだ。
    じゃあまた大学で会おうね」

二人としては可愛い女の子ですし、嬉しいわけですよね。
車が横浜の方に近づいていく。

女の子「すみません、そこの道を左に入ってください」

国道を逸れて側道をしばらく行く。

女の子「ありがとうございます。ここで結構です」

女の子は車から降りると「どうもありがとうございました」と頭を下げて建物の方へ走って行く。
その先には二階建てのアパートがあるわけだ。
女の子は外階段を登っていく。
なんとなしにそれを見ながらあぁ部屋は二階なんだなと思っていた。
階段を上がり切ると廊下は建物の向こう側になっているから女の子の姿は消えた。
時刻は時刻なもんだからアパートの部屋の電気はどこも消えている。
ということは明かりがついたその部屋が彼女の部屋というわけなんですね。
しかし待っても電気はつかない。

Bくん「おい、明かりつかねーな」
Aくん「うーんそうだなぁ。でもいいよ、ちゃんと家まで送ったわけだし」

そして車を発進させたわけだ。
そしてまた246を戻ってきた。
と、

Aくん「おい、後ろに俺のバック無いか?」

Bくん「無いぞ」

Aくん「あー、じゃあ俺、バックをスーパーマーケットに置いてきちゃったかもしんない。
    悪いけど、アパートに寄る前にスーパーに寄っていいか?」

そして二人はまたスーパーに戻ってきたわけだ。
そしてスーパーマーケットに入り、店員さんに聞いた。

Aくん「すみません、こういう風な黒い革のバックなんですけど、忘れていませんでしたか?」

店員「はい、お預かりしておりますよ。こちらですね」

遅い時間でお客さんも少ないですし、お店のほうがきちんと預かってくれていたんですね。

店員「すみません、中身確かめてくださいね」

中には手帳も財布もきちんと入っている。

Aくん「ありがとうございます。全部きちんとあります。」

それで二人はお礼を言ってスーパーを出た。
車に乗り込もうとして、フッと視線の先、公衆電話BOXが見えたんであら?と思った。
小さな明かりがついて、中に女が居るんだ。

Bくん「おい、また女が居るぞ」

Aくん「なんだよ、何だ今日はおかしな日だな」

と言いながらAくんがひょいっとそちらを見た。
そしてあれ?と思った。

女は電話をかけているんじゃない。
国道の方をジーっと見つめている。

二人はそーっと近づいていった。

Bくん「おい・・・あれってさっきの彼女じゃないか?」

Aくん「そんなはずないだろ。
    今送っていったばっかりなんだから居るはずないよ」

Bくん「だけどさ・・・」

気になるんで二人はもう少しだけ近づいてみた。
あの服装・・・あの横顔・・・どう見てもさっきの彼女なんですよね。

Aくん「・・・どういうことなんだよ。 おかしいだろ」

そのまま行って声をかけるのも何だか気になるもんですから

Aくん「おい、向こう側に渡ってさ、あっちの暗い歩道の方から見てみようか」

車道を突っ切っていって向こう側の歩道、影になっていて暗いんですよね。
そこに二人は行ってみた。

丁度道路を挟んで向こう側、公衆電話BOXが見えるわけだ。
二人はヒョイッと見てみた。

若い女はジーっと国道を見ている。

Bくん「おい・・・やっぱり彼女だよ」

Aくん「あぁ、どういうことなんだ? なんでいるんだ?」

こうなってくるとなんだか怖くなってきた。
そうして二人はそのまま車に戻った。

Aくん「明日さ、大学の事務局に行って聞いてみようか・・・」

翌日二人で大学の事務局にやってきた。
学部も名前も聞いていましたからね、女性の事務員に昨日の彼女のことを聞いてみた。
女性の事務員は「はいはい」と言って席を立ち、名簿を持って戻ってきた。

そしてその名簿を開き
事務員「あぁいらっしゃいますね。 こちらの方ですね」
と言って見せてくれた。
名前もある。住所もある。

事務員「あれ、この方・・・亡くなってますね。
    二ヶ月ほど前に亡くなっていますよ」

Aくん「死んでる・・・?
    事故かなんかですか?」

事務員「えぇ、そのようですね」

Bくん「ど、どうもありがとうございました」

二人は事務局を出てきた。

Aくん「おい、どういうことなんだよ。
    昨日俺達が送ったあの彼女って生きている女じゃなかったのか?
    俺たち・・・死んだ彼女を送ったのか?」

Bくん「さぁな・・・。
    人の名前使ったのかもしれないけど、そんな必要無いしな。
    それと俺、一つ気になったんだよ。
    今の名簿、あそこに書かれていたあの住所さ、昨日送っていったあのアパートと全く違う場所だぞ」

Aくん「えっ。・・・確かめに行ってみるか」

Aくんが場所を覚えているということだったので、車で確かめに行くことにした。
記憶をたどってあのアパートに行ってみた。
2階建ての小さなアパート、下は四世帯、上も四世帯。
外階段の方に回る。

外からひょいっと見ると、二階の右端に手すりがあり、そこに幼児の服というか洗濯物が干してある。
学生のものじゃない。
隣には人が住んでいるようなんですが、学生が住んでいるようなそんな雰囲気じゃないんだ。
その隣は窓が閉めきってある。
更にその隣はやっぱり人が居るようなんですが、学生が住んでいるようなそんな雰囲気じゃない。

階段を上がっていった。
二階の通路に出た。

一番手前の部屋は玄関のドアは閉まっており、そこにベビーカーが表に出ている。
これは彼女の部屋じゃないな・・・。

その隣。
やはり学生が住んでいるような雰囲気じゃないし、そこの表札を見ても名前が違う。

次の部屋。
窓もドアも閉まっていて、表札もない。
ここかなぁと思いながら様子を伺っているとその向こうの部屋のドアが開いて若い奥さんが顔を出した。

こっちが頭を下げると
若い奥さん「お隣さんは引っ越されてそちらは今どなたも居ませんよ」
と言った。

Aくん「あっ、引っ越したんですか。
    あの、大学に行っている女の子なんですけど・・・」

若い奥さん「えぇ、大学に行っているお嬢さんが居たんですけどね、
      一週間くらい前に引っ越されましたよ」

一週間前。

Aくん「あの・・・何で引っ越したんですかね?」

若い奥さん「あのね・・・二ヶ月ほど前でしょうかね。
      仲の良かったお友達が亡くなってね、とても落ち込んでいたんですけどね。
      その後に何だか無言の電話がかかってくるということで気味悪がってましてね。
      そして引っ越してしまったんですよ」

Bくん「そうですか、すみません」

そうお礼を言って二人は車に戻ってきた。
車を走らせ始めた。

Bくん「あのさ、今の話だけどさ・・・引っ越した女の子ってさ、
    無言電話がかかってくるんで気味が悪いって言ったろ?
    それってさ・・・あの彼女があの公衆電話からかけていた・・・その電話じゃないかな?」

Aくん「あぁ・・・多分な」

Bくん「なぁ、あの彼女だけどさ、俺達が行った時にさ、電話をかけても繋がらないって言ったよな。
    それってさ、相手が引っ越したからじゃないかな・・・」

Aくん「あぁ・・・多分な」

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