つける足音

私昔お店やってたんですけども、そこに若いお坊さんがよく来るんですよ。
それでその方の妹さんもよく来るんだ。
その人も色々な体験をしているんですよね。
全く脈絡もないような話なんですけども、怖い目にあったって言うんです。

自分の実家のお寺というのはかなり木がいっぱいあって、夜は薄気味悪いくらいに鬱蒼としていて
外からの音も聴こえなくなっちゃうって言うんです。

それでもやっぱりお寺のお嬢さんですから、式典や何かの会があったりすると準備を手伝わないといけない。
それで結構忙しいんだそうです。

準備を手伝ったら遅くなっちゃって、自分は家に帰ろうと思ってね、
お父さんはまだ残って準備をしているんですけども暗い中を一人で歩いて帰ろうとしたらしいんです。
その時に何かがついてくるような気配がするって言うんです。

ヒタヒタヒタヒタ・・・

でも気にすることないやと思ってカッポカッポと歩いていく。
するとうっすらと声が聴こえてくる。
子供のような声。

(えっ、こんな時間に子供の声が聴こえるっていうのはどういうことなんだろう)

そうしたらこれが赤ん坊の泣くような、笑うような声ってあるじゃないですか。
そういう声だって言うんです。

(やだこれ、おかしい)

今自分が歩いている後ろのほうから聴こえてくる。
それも自分が立ち止まるとたちまち近づいてくるって言うんです。
道ですよ、お寺さんの。

何だか気持ち悪くって動けない。

オギャーオギャーオギャーオギャー

(嘘だ、こんなの何処に居るの・・・)

それで意を決して振り向いたら、何だかよくわからないけども、黒いものが
だんだんと自分に近づいてくるって言うんです。
よく見るとそれは赤ん坊のような形でハイハイをしているそうなんです。

(うわぁ、もう嫌だ。 見るのも嫌だ!)

そう思ったら、自分の首のところにぴょんと飛び乗って

オギャーオギャーオギャーオギャー

って言ったんで、とうとう意識を失ってしまったそうです。

「稲川さん、あれは一体何だったんでしょうか・・・」
って私に言ったんですよね。

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