やさしい霊

幽霊って怖いですよね。
でも怖いと思っているのはこちらの勝手で、あちらはこちらを驚かそうなんて思っていないのかもしれないですよね。
時にはやさしい霊もいるんだなぁと感じる時が私にはあるんですよ。

例えば私の話ですが、私の生まれは東京の恵比寿というところなんです。
私が小さい時、三歳くらいの時だったかな。
私の母親とお婆ちゃんとおばさんと兄弟と従兄弟、皆で巣鴨のとげ抜き地蔵に行ったんですよね。
これは毎月四の日に行っていました。

JRの恵比寿駅から山の手線に乗って巣鴨に行くんですが、小さいから足がしっかりしているわけじゃないんですが、私走り回っていたんですね。
それで私、プラットホームから線路に落っこちちゃった。
ちょうどその時に山手線の電車が目黒方面からホームに入ってきた。
私が落っこちた場所は渋谷に近い方です。
その電車が私のことを見つけ、ファーン!と警笛を鳴らした。
そして灯りをパッとつけたわけです。

私、その時のことは今でもはっきりと覚えています。
そうしたら男の人がホームからポーンと飛び降りてきて、私を抱えてホームに上げたんですよ。
そしてその人も続いてホームに上がってきた。
電車はブレーキをかけながらホームに入ってくるんですが、幸い私が落ちたのは渋谷側だったんで問題無かったんです。
その時になってようやく周りにいた人たちが騒ぎ始めたんですよね。
それでお母さんもお婆ちゃんも気がついたわけだ。
と、私のお婆ちゃんが言うんですよ。

「あー良かった。とげ抜き地蔵さんのお陰で助かったんだ」

お婆ちゃんの話を聞いて、母親もそーだそーだと言うんです。
確かにその通りかもしれないですが、実際に助けたのはおじさんです。
それでおじさんの方を見ると、おじさんは入ってきた山手線の電車に乗って渋谷方面に行ってしまったんです。
でもその時私、そのおじさんのことを何処かで見たことがあるような何だか懐かしいようなそんな気がしたんですよね。
子供ながらにあの人は誰だろうと思った。
何だか自分の父親に似ているような感じがしたんです。
それで私が五十を過ぎた頃に、この話をたまたま友人にしたんですが、

「純ちゃん、その人もしかしたら、お婆ちゃんもお母さんも見えなかったんじゃないかな。
 その人もしかしたらこの世の人じゃないかもしれないよ」
というんですよ。

その時、私、ん?と思い出した。
私、好きな伯父さんが居るんですよ。
親父の弟になる人で、私が生まれる前に戦争で亡くなっていますが、私の家族から伯父さんのことを色々聞かされていたんです。
そんな話を聞いていたからか、私はあったこともないその伯父さんのことが大好きだった。
待てよ、あの時の伯父さんは本当にその伯父さんだったんじゃないかなと思うんですよね。
今はもうそうやって信じています。
あれは間違いなく私の伯父さんだったんですよね。

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