アキコ

お父さんの仕事の都合で、両親がしばらく家を空ける事になった。
それで、しばらくの間一人暮らしをする事になった仮にA君としておきましょうかね。

そのA君のところへ、友達のB君が日曜日に電話をいれた。
すると女の人が電話に出て「ただいま外出していて出られません」と電話を切られちゃった。

(なんだよおい。日曜に家に居るから、電話をくれって言ったのに、あいつどこに行ってるんだよ…)
と思いながら、A君の携帯にかけてみた。

「おい、お前今どこにいるんだよ?」
「どこって、家に決まってるだろ?」

「嘘つけー!今、お前の家に電話かけたら、女の人が出て、外出中で出られませんって言われたぞ?」
「いや、家に居るよ!お前、どっか間違えて掛けたんじゃないか?」

「いや間違えてないよ。ちゃんと俺の名前も言って、お前の名前も言ったしさ。」
「え?本当かよ。」

「ところで、お前あの女の人誰?親戚の人でも来てるのか?」
「いや、誰も来ていないよ。家には俺一人だよ?」

「嘘だろー?ちゃんと電話にも出たんだからさ」
「いや、本当だって。俺一人だもん。おまえこそ本当に電話したのかよ?」

「したよ!」
「あー、でもそういえば…今しがた下で電話が鳴ったんだよな。
俺二階に居たんだけど、出ようとしたら切れちゃってさ。
じゃああれがお前からの電話だったのかな?」

「そうじゃないか?」
「いやさ…そういえば最近周りで変な事がよく起こるんだよな…
お前さ、ちょっと悪いんだけど、俺の家に来てくれないかな?」

「うん。いいよ。」
そう言って、B君はA君の家まで出かけていった。

夏の陽も落ちて、もう辺りは夜の闇。
庭に面したほうを網戸にして、それを背にしてB君が座っている。
廊下のほうは襖にして、A君はそちらを背にして座っている。
座敷のテーブルを囲んで、ちょうど二人は向かい合うようにしてお喋りをしているわけだ。

あれこれと話しをしているうちに、ちょうど二人が同時に話しをやめた。
なんだか気配がしている。それは、どうやら廊下のほうからしているようだ。
おかしい。家には二人しかいないわけだ。

B君が、A君の肩越しにジーっと廊下のほうを眺めてる。
A君は、B君のそんな姿をジーっと見ているわけだ。

何かがだんだんだんだんとこっちへやってくる。
そんな気配がしてる。微かな物音もしている。
来てる。確かに何かが来てる。

B君は、A君の肩越しに廊下のほうをただジーっと見てる。
A君はなんだか怖くなってきて、そんなB君の様子をただジーっと見ているわけだ。

だんだんだんだん何かがやってくる。

(何かが来る。来てる来てる…自分のすぐ後ろまで来てる。)
それでA君はB君をジーっと見てる。B君は相変わらずA君の肩越しに何かをジーっと見てる。

すると一瞬B君の表情が変わったんで、「どうした?」ってB君に聞くと、
B君が「なあ、縮れた茶色の髪の毛でさ、左の目の横にほくろのある色の白い女、知ってる?」
って言った。

「え?縮れた茶色の長い髪で、左の目の横にほくろがあって、色の白い女?
…それ、アキコだよ…お前なんでアキコの事知ってるんだよ?
以前に付き合ってた彼女でさ、去年亡くなったんだよ…なあ、なんでアキコを知ってるんだよ?」

するとB君が、「いや、その女が…今お前の後ろに居るんだよ…」って言った。

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