『イッテラッシャイ』
ソウさん 2008/08/19 08:02「怖い話投稿:ホラーテラー」
「っしゃあ、行ってくるか。」
まだ眠気の覚めない自分に気合いを入れる。
まだ片付けきれていない段ボールを避けながら靴を履き、玄関のドアを開けた。
『いってらっしゃい』
部屋の奥からの声に送られ、ドアを閉める。
……?
俺は独り暮らしだ。
俺は直前まで部屋にいた。
部屋を出る時、窓の鍵を閉めたし、ここは5階だ。
最新のセキュリティを誇るマンションだから、不審者の潜入は難しいはず。
貴重品は金庫の中で、万一に備え、保険にも入っている。
盗れるものなら、盗ってみやがれ。今日の取引先相手の方が、今は大事だ。
会社に着き、同僚に今朝の出来事を言った。
彼はこう言う。
「セキュリティを通過したにせよ、強盗だったら出かける前に襲うはずだ。泥棒だったら、『いってらっしゃい』なんて言うか?」
同僚の言う通りだ。
しかも、あの声は間違いなく女の声だった。
ま、まさか・・・
あ、あの部屋に・・・
オバ・・オバ・・
おばさん
が住んでいる?
極度に霊というものが苦手な俺はプラスに考えようともした。
でも、もし帰ってドアを開けたときにまた声が聞こえたら・・・。
不安は的中した。
帰りもおそくなり、駐車場から部屋を見上げると…
部屋の電気は消えているが、青白い光と何かの影がカーテンに揺れている。
部屋に入れるはずもなく、その晩は駐車場の車の中で過ごす。
…夜が空けた。
最悪なことに、今日の商談で必要なプレゼンの資料が部屋の机の中にある。
幽霊が怖くて、準備できませんでちた…なんて子供じみた言い訳が通用するほど、会社は甘くない。
会社に行く時間が迫っている!
同僚の携帯電話に留守電を残す。
「俺の身に何かあったら、後を頼む…」
俺は自分に言い聞かせた。
俺は空手三段だ!
(相手は幽霊だけど)
おまけに、そろばん2級だ!
(関係ないけど)
相手はきれいな女かもしれない!!
(おばさんだけど)
意を決してエレベーターを上り、オートロックを解除した……。
額の汗を拭い、耳をすます。
やはり、それは聞こえてきた・・・・
「…いってらっしゃい。
続いて、天気予報です。」
つけっぱなしだったTVを切ったとき、同僚から携帯に電話がかかってきた。
「大丈夫か?」
「う、うん。今日は晴れるみたいだね。」
「……は?」