銀時計

410 :本当にあった怖い名無し[sage] :2006/08/05(土) 10:44:01 ID:GTDjd4ly0
スレ違いかもだけどキボンかかったので乗せちゃいます。 
家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが 17歳の頃までだから私は話でしか知らない 
のだけど結構面白い話を聞けた。 
田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、神様とか妖怪やら祟りなど 
非科学的な物が当たり前に信じられていた時代でそう言った物を質屋に持ち込む人は少 
なくは無かったそうだ。どういった基準で値段をつけていたのかは分らないが、じいち 
ゃん曰く「おやじには霊感があったからそう言う神がかった物は見分ける事ができたん 
だ」と喜一じいちゃんは言っていた。

「銀時計」 
日清・日露と勝戦続きで景気が良く日本では輸入品を扱う変な商売人が増え出した頃。 
「…っとまぁそんなわけでこの中国から渡って来たカッパの手、煎じて飲めばどんな奇病 
も治すと言われ…」うさん臭い輸入商人が機関銃の様にしゃべっているのを「ファ~」っ 
とでかいあくびでおやじが断ち切った。「わり~が、孫の手なら間に合ってるんだほか当 
たっとくれ」ピシャリと言うとデブ商人は慌てて鞄から色々な物を取り出しあれやコレや 
とほかの物を勧めて来た。 
ウンザリと言った顔をしていたおやじが急に目の色を変えた。「おい、あんたその時計そ 
れなら買うぞ!」おやじが興味を示したのは鞄の中では無く商人が腰に下げていた外来物 
の時計。壊れてはいたが立派な細工から高価な事は喜一にも分った。 
輸入商人は眉を潜めたがさすがは商売屋、おやじは渋る相手から3割値切り、処分に困っ 
ていたガラクタまで押し付けたのだった。おやじは上機嫌だったが壊れて動かない時計の 
何がいいのか解らず「カッパの手は何で買わなかったんだよ、本当に水掻があったのに」 
と漏らすと「あんなもん清のガキの手 切り干して細工した紛い物に決まってるだろうが」 
と言い切られてしまった。 

翌朝、食卓でおやじが「好かん」と言った、家族全員固まった、おやじの「好かん」は 
「良く無い」と言う意味で機嫌が悪いときにも使われた言葉だったからだ。おやじは朝食 
に箸もつけず家を出て言った。朝食はおやじの好物、喜一はここ三日は得に叱られる事は 
していなかった、何より昨日はあんなに上機嫌だったのに…家族皆首を傾げた。 
店番をしているとおやじが夕暮れに帰って来た、どこに行っていたのか聞くとおやじはた 
め息をついた「信じられねぇとは思うが俺は今日を4回繰り替えしてる。寝て起きたら 
また今日なんだ…」喜一は驚かなかった、それより始めて見たおやじの参った顔に驚いた。

おやじはあの日時計の中を開けた、そこにはわざと歯車が動かない様にネジが詰められ 
ていた。おやじはそれがどう言った物なのか何てとっくに気付いていた、気付いていたが 
ネジを抜き取ってしまった…時計は動いた そしておやじの時間が止まってしまった。 
「あぁ~わかってたんだよなー憑いてるって…何でかな~…いけると思ったがまさかこう 
来るとは」自分の好奇心と最近天狗になっていた事を悔やんで愚痴った。 
ベットに横たわる女性とその横で時計を作る男の姿がおやじには見えていた、そして 
「共に時を刻もう、それが叶わぬならいっそ時が止まってしまえばいいのに」そんな願い 
も聞こえていた。 

顔を上げ頭をボリボリ掻くと「俺の負けだ…しかたない…」そう言っておやじは納屋から 
金槌を持って来た、喜一が声を上げるより早く槌は振り落とされ時計は簡単に砕かれた。
「何で!?あんなに気にってたのに」喜一がおやじの顔を見上げると「いいんだよ、最悪 
こうしてくれってさ…」覇気の無い顔と声でそう呟くと床間にたどり着く前に茶の間でお 
やじは倒れる様に寝てしまった。 
喜一は知らない、霊が時計にとり憑いている理由やおやじが霊とどんな勝負や約束をした 
のか、聞いても「ガキが聞く話じゃねぇ」とあしらわれた。 
でも知っていた、おやじが筋の通った男だと言う事は、物にも人にも人じゃない者にも。 
だからきっとおやじの4日間は、時計の為に霊の為に走り回っていたんだろうと喜一は 
感じていた。 
「っとになんだよ、店まかっせっきりにしといてガキ扱いかよ…」そうふて腐れ床につ 
いたが、翌日喜一は始めて自分から蔵掃除の手伝いをしたそうだ。

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