部屋の女

57 :@ :2006/08/11(金) 22:07:10 ID:QZLTaZZu0

3年前、私の兄はとあるアパートの1階に住んでいた。 
スーパーやバス停などは近かったが、窓のすぐ向かい側に高い塀が 
そびえているせいで部屋はいつも薄暗く、常に湿気に満ちた陰鬱な部屋だった。 

ある日曜日の昼間、うとうとと仮眠を取っていた時のこと。 
兄は何となく人の気配を感じ、まだ頭がはっきりしないまま目を開けた。 
仰向けの兄の上に見知らぬ人間が馬乗りになり、顔をのぞき込んでいる。 
長めの髪と体型で、かろうじて女だと分かった。 

「あ……れ……」 

女はぶつぶつと、何かを呟いている。 
眠気が一瞬で吹き飛んだ。 
体を動かそうとしたが、ぴくりとも動かない。 
それどころか悲鳴さえ出せない。 
兄がもがいている間に、女は両手を近づけてきて、兄の首をぎゅっと締め上げた。 

「……れ……あや……謝れ……」 

女の言葉が次第に聞き取れるようになってきた。 
低く絞り出すような声で、そう呟き続けている。 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」 

分かった瞬間、兄は叫んだ。声は出なかったが、少なくともそのつもりだった。 
そして直後、気を失った。 
やがて気がついた時には、室内には誰もいなくなっていた。 

現在は別のアパートに引っ越しているが、あの部屋で何かあったのか、 
何を謝れと言っていたのか、3年経った現在でも分かっていない。 

前の話へ

次の話へ