ストーカー

650 :1/4@\(^o^)/:2014/09/15(月) 20:35:01.08 ID:bMte0j+t0.net
かなり昔、バイト先の後輩の話です。 
当時は高校生が携帯を持ち始めたくらいの頃で、18歳のその子は携帯を持っていなかった。 
今のうちからバイトをして、大学生になったら自分で買うんだと言っていた。 

俺は彼女より年上で、二年長くそのバイトをやっていたので、会うとよくバイトや勉強のことで話しかけられていた。 
ある日バイトを終えて控室に戻ったら、先に上がっていたはずの彼女が、まだ椅子に座っていた。それも一人で。 

時間も時間だし、なんだか思いつめたような感じだったから声をかけた。 
「最近夜にバイトあがると、誰か後ろからついてくる感じがするんです」 
「一人でお店出るの怖くて……もしよかったら、途中まで一緒に帰ってくれませんか?」 

なんか適当に明るいことを話しながら家まで送った。 
男の俺がいるせいか、今日はついて来られてる感じがなかったとお礼を言われた。 

その一週間後、同じ時間にバイトをあがると、また控室に彼女がいた。 
先週と同じか、もっと暗い顔をしていた。 

「窓から部屋を覗かれてる気がするんですけど、怖くて確認できないんです」 
「先輩と一緒に帰った日に後をつけてこなかったのは、もしかすると、もう私の部屋の外で待ってたからかも」 
彼女の家は一軒家で、部屋は二階。 
そんなところからどうやって覗くのかというと、塀から隣のマンションの物置?みたいな小さな建物によじ登れる。 
そもそも地面の高さが違うので、その上からなら木の枝に身を隠しつつ覗けそうだという。
というか、その辺りから見られている気がすると言っていた。 

一応その日も同じように家まで送った。彼女が言っていた場所には、誰もいなかった。
(下から見ただけだから、確実じゃないけど) 
俺は今ある貯金で携帯を買ったらどうかと勧めた。
夜道で家族と話しながら帰るとか、いざとなったら俺や友達を呼べるようにって。 

それからは、その子は日に日に窓や人影に怯えるようになった。 
明るくて可愛い子だったんだけど、笑わなくなって身だしなみを気にしなくなって、別人みたいだった。
ある日俺が出勤すると、控室にバイトを終えた彼女がいた。幽霊みたいでギョッとした。 

「先輩、ベランダに、いるんです。ストーカー。家族にカーテンを開けてもらうと、いなくなってて。
家族が出ていくと、上からにゅっと覗くんです……」 
上から。そんな所、誰もいないはずだった。 
彼女の家の屋根に登るなんて、それこそ長いはしごが必要だろう。
帰るためにはかけたままにしておかなきゃならないだろうし。 
ずっといるって言うなら、俺だって人影を見ているはずだ。 
「あと、わたし携帯買ったので、先輩の番号とメルアド教えてくれませんか」 
とりあえず連絡先を交換した。 

その晩さっそくメールがあった。 
「今誰かがいます、怖いです」 
「先輩は家ですか?もし今バイト先だったら、ちょっと私の家の前まで来てもらえませんか?」 
「電話してもいいですか」 

たてつづけにメールがきて、途中になんとか一回「いま家だよ」と返事ができた。 
すぐに着信があった。ひそめた声で、もしもしとなんとか聞こえる。 
「帰ってるってバレるのが怖くて、昼から一度も電気つけてないんです」 
そのときは夜の0時だった。 
「そうしたら、隣のマンションの電気で、カーテンの向こうが明るくて、影が」 
そこまで言って黙る。泣いているみたいだった。 
「やっぱりベランダにいるんです。それに、なにか言ってるんです…たぶん、『いるんだろ』って……」

ぶつ切れで話されるので、なんて言っているのかよくわからなくて、何度か聞き返した。 

彼女はベッドの頭側の装飾板の陰に隠れているそうだ。窓からはたぶん姿が見えない。 
隠れているベッドの装飾は穴が少しあいていて、なにか感じた彼女がその穴から窓の方を覗いたそうだ。
カーテンには大きな男の影がかかっていた。ほとんど窓にぴったりくっついているくらい、影はくっきりしているそうだ。 
驚いて壁に肘をぶつけると、その後からぼそぼそ声が聞こえたのだという。 
「いるんだろ」と。 
その声が聞こえているんだから、この電話の声も影の男に少しは聞こえているかもしれない。 
でもベッドの陰から出ていくのが怖くて、男が諦めるのを待っていると言う。 

「先輩、お願いです、助けてください…。うちの前に来て、人影がいたら、警察に電話してくれませんか? 
もう家族も信じてくれないんです、覗かれてるって」 
すごく必死な訴えに、俺はわかったと言って電話を切った。 
それから頃合いを見計らって、「見に行ったけど、誰もいなかったよ。今ならリビングに移動できるよ」とメールを送った。 

見に行かなかった。でも、本当に誰もいるはずがない。 
彼女の部屋のベランダには、木を登ったって入れっこない。屋根と一緒で、堂々とはしごでも使わなきゃ無理だ。 

ストーカーしてたのは俺なんだけど、もう彼女に興味なくなって家にいたし。いたとしたら、きっと人間じゃないと思う。 

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