ほっかむりの男

13 本当にあった怖い名無し 2012/09/20(木) 00:47:27.97 ID:cwXS/PUK0

私が高校生の時。国語の先生が話してくれたお話です。 

先生が引率として行った、何年か前の修学旅行。 
行き先は仰っていませんでしたが、今と変わっていなければ北海道でしょう。 

元気盛りの高校生達。多少の問題は起こったものの、まぁ例年通り。 
ホテルまで辿り着き、早めの夕食の時間でした。 
ふと、近くの女の子グループのテーブルを見ると 
お喋りばかりであまり箸をつけていません。 
お年頃ですからね、男の子達の目が気になったのでしょう。 
先生は、声こそかけなかったものの 
『あらあらあの子達、夜中にお腹空かせて買い食いでもするんじゃないかしら』 
と、これもまた例年通りの心配をしていたそうです。 

そして夜中、深夜1時頃でしょうか。 
先生方でこっそり飲み交わしたお酒もまわり 
布団に潜ってウトウトしかけた時、突然、部屋のドアをドンドン叩く音と 
「先生たすけて!」という女の子の泣き声。 
同室の先生と顔を見合わせ慌ててドアを開きました。 
そこにいたのは夕食時に目に付いたグループの女生徒がふたり。 
「○○ちゃんが変なの!どうしよう!」 

彼女たちの部屋はすぐ近くでした。 
飛び込むように部屋に入ると、布団の上に仰向けに倒れている○○ちゃんと、 
青い顔をしてその横に座り込んでいるもう一人。 
何か事故でもあったの!? 
こちらも蒼白になりながら○○ちゃんの肩をゆすると、 
彼女はあっさりと目を覚ましました。 
キョトンとして、なにかあったの?という風情。 
ホッと胸を撫で下ろし、彼女たちに何があったのか尋ねました。 

その話はこうです。 

深夜0時をまわった頃。もちろん消灯の見廻りは声をひそめてやり過ごしました。 
布団に形だけは入り、くすくす他愛もないお喋りをしていましたが 
やがて誰ともなく「お腹空かない?」の声。 
先生の予想通りでした。 
しばらくは我慢していましたが、やっぱり無理!とのことで、 
こっそり1階のエントランスに向かいました。 
もちろん売店は閉まっている時間ですが、 
何台かお菓子の自販機があったのでそれ狙いでした。 
こそこそと、少し楽しくなりながら1階まで階段を降りると 
エントランスの薄暗くなった照明の中に、浴衣姿の人影が見えました。 
白地に紺色の模様、後ろ姿でしたが男性です。 
なぜか、頭にはほっかむりをしていました。 
誰とまでは判りませんでしたが「ヤバイ!先生だ!」と 
慌てて階段を引き返そうとしました。 

その気配でゆっくり振り向き始めるほっかむりの男。 
両手をゆっくり、案山子のように広げました。 
それ以上見ている場合でない!捕まったらお説教されるのは目に見えています。 
我先にと階段を駆け上がる彼女たちの後ろから 
広げた両手と体をやじろべえのように両側に揺らし 
ゆっくり、ゆっくりとした歩みで追ってきます。 
顔はよく見えません。声も上げません。 
彼女たちの部屋は3階です。 
こんなに全力で駆け上がっているのに、なぜか男はゆっくりとした歩きで 
どんどん距離を詰めてくるのです。 
とにかく無我夢中で走り、部屋になだれ込みました。 
その瞬間、最後尾を走っていた○○ちゃんから「ひゃあ!」と悲鳴。 
「背中撫でられた~!!」 

勢いでドアまで閉めたものの、もう部屋もバレてしまっているので 
いつ『コラァお前らぁ!』の怒声が響くかとビクビクしていたのですが 
しばらく経っても部屋はシーンと静まりかえったままでした。 
「…もしかして、見逃してもらえた?」 
皆なんとなく違和感は感じていたものの、ひとまず安堵感でそれを拭い去りました。 

「もう買いに行くのは無理だね~」 
しかし走った動悸と興奮でしばらくは寝付けそうにありません。 
四人でまたくすくすとお喋りを始めた時、 
急に○○ちゃんが『XXXXXXXXXXX!!!!!』と叫びました。 
何と言っていたかは判りません。男の怒声のような感じでした。 
三人がビックリしていると、今度はよだれを垂らしてアハハハハハと笑い出し 
そのまま仰向けに倒れびくんびくんと痙攣を始めました。 
そこで慌てて先生の部屋に駆け込んできたというわけです。 

起きてきた他の先生方にもみっちり叱ってもらった後、 
その浴衣の男が気になり尋ねました。 
が、四人とも覚えていたのは白地に紺の浴衣とほっかむり、という点だけでした。 

修学旅行中、そのホテルは学校の貸し切りでした。 
彼女たちが見た白地に紺の柄の浴衣は、たしかにこのホテルの物です。 
しかし生徒達の部屋にも先生方の部屋にも、浴衣は置いてありませんでした。 
薄暗く落とされた照明の下で 
彼女たちは初めて来た遠方のホテルの、見る機会が無いはずの浴衣の柄だけを 
何故かハッキリと覚えていました。 


そういうお話です。 
その後は特に何事も無かったそうですが、 
修学旅行を間近に控えた私たちのクラスでこの話をした先生の 
悪戯っぽい笑顔を今でもたまに思い出します。 
長文失礼致しました。 

 

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