ほんとのトンネル

49 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/09/08 10:17

トンネルで不思議なできごとに出遭った。そんな話をよく聞くのだが、実は私にもそんな経験がある。
この時期になると思い出すのだ。ちょうど冬休みに入った日のこと。小六だった。

そのトンネルは高速道路の下をまっすぐ横切る細くて短いトンネルだった。
左右一車線ずつ、片側にしか歩行者用の区切りがない、そんなところだった。今はアスファルト舗装されているが、この当時はまだ舗装もされていなかった。

場所は伏せた方がいいと思うので書かないが、ある県の農村部とだけ申し上げておく。とにかく田舎のトンネルだ。

その日私は友人宅に行くためにそのトンネルを通った。まだ午後の一時過ぎだった。
子供の足でも数十秒で通りぬけられるくらいの短いトンネル。

むこう側の出口がトンネルの外からだって見える、
そんなトンネルに入った途端だった。目の前が急に真っ暗になった。
見えるはずの向こう側が見えない。なにが起きたのかわからなかったが、とにかくおかしいぞ、と思った。

それでとにかく一度外に出ようとふりむいたら、そこにはあるはずがない壁が。
ちょうどトンネルの横壁と同じようなコンクリートの壁があった。入ったばかりの入り口が壁で全部塞がっていた。

怖くなり外に出ようとトンネルの反対側出口に向かって走ったが、いくら走っても外に出なかった。
先にも書いたがそもそも出口が見えない。いつもなら、あっという間に出られるはずなのに。
そこでもう一度反対にもどると、やはり壁に突き当たって出られなかった。
ちょうどながーい袋小路に押し込められたような感じだった。


当然パニックを起こして「うわー」とか「おおー」とか叫んでいたと思う。

壁も叩いたり蹴ったりした。しかし壁に変化などあろうはずもなかった。

しかたなくもう一度向こうに出ようと歩き始めた。
依然として出口は見えないままだったが、しばらくして妙な音がしているのに気づいた。
横壁の向こうから車の走る音がしていた。普通に道路を歩いている時にしている車の音。
舗装していない道を走るジャリジャリという音。

そのときにわかった。「壁の向こう側にほんとのトンネルがあるんだ」って。
じゃあ今いるここは、と考えても答えは出なかった(というよりもいまだに答えが出ない)が、
とにかくここはあのトンネルではない、それだけは確かのようだった。
そこで横壁をさわりながら前に進んでいった。横壁のどこかからトンネルに帰るのではないかと思ったのだ。
聞こえるからにはつながっているところがある、と思うしかなかった。

ちょうどパントマイムでよくやってる「壁」って奴。あれのような恰好で壁を触りながら進んでいったら、突然、ほんとうに突然明るいところに出た。
あたりを見ると20mくらいうしろにトンネルの入り口が見えた。道端に立っていた。いつもの見慣れた場所。

「こちら」に戻ってきたらしかった。戻ることのできた理由はわからない。
このあと急いで友人宅へ行き、これこれこうだ、と説明したのだが、当然信じてもらえなかった。
無理やりトンネルまで連れてきたが変わったところはなく、「うそばっかりいってるんじゃない」と言いながらトンネルに入っていった友人も、
なんのこともなくトンネルを通りぬけてまた普通に戻ってきた。

話はこれだけですが、ひとつだけ今でもどうなっただろう、と思うことがある。
あの時私はひとつしかない歩行者用の区切りに沿って中に入り、そのあともこの区切りの中で奥にいったり、戻ったり壁を触ったりしていた。
もし、あそこで区切りの向こう側、つまり奥に向かってではなく車道にむかって横にずっと歩いていたら、むこうはどうなっていたのか、それがわからないのだ。
壁があったのか空間が続いていたのか。

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