袋の中

211 : ◆M3KxHxXh2A :03/03/25 21:59

少し長くなってしまいますが聞いていただけると幸いです。
子供の頃の話。 
梅雨の時期、スイミングスクールの帰り。 
公園の植込みの中に、黒いビニール袋に入った何だかぼったりとしたものが置いてあった。 
大きさは、普通の大きさのゴミ袋が少しダボつくくらい。 
何だろう?とちょっとワクワクして、持っていた傘の先で突っついて穴を開けた。 
ブニっとした嫌な感触がして、中から赤黄色い半濁とした汁が染み出てきた。 
それに伴っての悪臭。 
梅雨の蒸れた空気と交じり合って、それはもう半端無い匂い。 
一度退散し、少し離れた場所から様子をうかがいつつ、 
傘の先についてしまった汁を地面に擦りつけて拭いていた。 
動物の死体かな? 
誰か、あの袋を開けてくれないかと辺りを見まわしたが、 
雨の公園に人はいなかった。 
中を見ないことには帰れない。好奇心はあの匂いに勝ったんだな。 
意を決して袋のもとへ行く。

持っていた傘の先で、先程開けた穴をめくってみる。少しだけ中が伺えた。 
犬か何かだと思っていたが、予想に反して白っぽいつるんとしたものが見える。 
ドキっとして一歩下がる。 
なんだろう?暫し迷ったが、やはり好奇心には勝てず 
その穴を一気に引き破いた。 
ビニールの中で引っ掛かっていたであろうものがズロンと出てきた。 
足だった。汁で覆われた白くつるんとした一本の足だ。 
細過ぎる。それに長過ぎた。過ぎるという表現がぴったりくると思う。 
人間?人間じゃない。 
動物?それも違う感じがする。 
足よりさらに細い足首からそのまま指が生えていた。 
その指も細過ぎたし長過ぎた。 
ついに好奇心は恐怖に負け、逃げるようにして家路についた。

帰宅し親に話そうかとも思ったが 
何だか言ってはならないような気がして、言わなかった。 
そういう子供だった。 
傘が無いのに気が付いたのは翌朝学校へ行くときだった。 
毎日降り続く雨にうんざりしていたと思う。 
母に傘を無くしたことを伝えると、また無くしたのかとしたたか怒られた。 
家にあった花柄の古い傘をもらう。 
こんな傘は嫌だと思ったが、また怒られるのも嫌なのでそのまま登校した。 
案の定、友人たちに冷やかされたが、天の邪鬼だった私は 
昨日の出来事を友人たちにも話さなかった。 
あの場所へ行くのは嫌だったが、傘を取りに行かなければならない。 
学校が終わった後、一度帰宅し、公園へ向かった。

雨の公園の中でしばらくうろうろし、誰かいないかと辺りを見まわしたが 
やはり、誰もいなかった。一人で行くしかない。 
遠巻きに見てみるとやはり自分の傘が落ちていた。 
この場所からでは植込みに隠れて袋までは見えない。 
少しずつ近づいていくと見えてきた。 
袋は昨日と同じくそこにあった。 
もう少し近づこうと思ったそのとき 
ガサゴソと袋が動き出した。 
恐怖で声が出そうになったが何とか踏みとどまった。 
いや、出せなかったんだと思う。 
生きてたんだ! 
私はソレに気付かれないようにそーっと何歩か後退り 
そのまま背中を向けて一目散に逃げ出した。 
公園を出て、小道を抜けて、多少大きな通りまで出ると 
人通りがあったので、速度を落として小走りになった。 
けれど、家に着くまで一度も後ろを振り返れなかった。 
殺される。そればかり考えていた。

その日の夜は一睡もできなかったと思う。 
自分の様子がおかしいのを両親が気付いたようで 
どうしたのか聞かれたが、やはり誰にも言わなかった。 
新しい傘はその日のうちに母が買ってきてくれていた。
梅雨の時期が過ぎた夏の盛りに、友人たちとその公園に遊びに行った。 
本当は行きたくなかったが、事情を知らない友人たちに押しきられたからだ。 
あれから幾日か経って、恐怖心もいくらか癒えていたんだと思う。 
あの植込みを遠くから見てみたが、何も無くなっていた。 
ほっとして遊びに集中していると 
ベンチにあのときの自分の傘が立てかけてあることに気付いた。 
しかし持ち帰りはしなかった。

長文の上駄文、失礼しました。

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