子供

768 :750[sage] :03/03/16 01:56 

なんかキボンヌされたのでいい気になって漫画みたいな幽霊話を。 
長いのでいくつかに分かれると思うけど…。 
(ちなみに新耳袋のハトの話って…どんなんだろう…今は無事なんだけど自分)
発端は友人と自分がそれぞれ自活を反対する実家からいっせーのせ、で飛び出して 
同じアパートの違う部屋で暮らし始めたことだった。 
そのアパートは激安だった。 
狭い三角形の土地に無理矢理立てたことが見え見えの台形の建物で、 
ワンルームな上に当時築30年、外壁だけ塗り直して中は古いままだった。 
家賃は2万円ぽっきり。 
部屋はほんとは6部屋あったのだが、なぜか4部屋しか募集しておらず、 
残り2部屋はしばらく空き部屋だった。 
というかそもそも4部屋をいっせーのせ、で募集するのもよく考えたら謎だった。 
そんなに古いアパートで外壁塗っただけなら前からの住人が引き続き住んでてもおかしくない。 
しかし、なぜか多分住人をいっせーのせ、で退去させて(ただの想像だけど) 
それから募集をかけたのではないかと後から思った。 
後で気になって空き部屋になっている2つのうちの1つをこっそりポストから覗き込んでみたら、 
部屋の中がぐちゃぐちゃに物が散乱したまま放置されていて、ぞっとした。 
しばらく放置された後にその部屋は片付けられたらしいが、入居者が現れたかどうか記憶にない。

とにもかくにも安いことは確かなので、自分は部屋が台形なのもまあある意味面白いかと思って 
気にしなかったのだが。 
いっせーのせ、で実家を出た友人Tは隣の部屋で、部屋はまともに長方形で、少し広かった。 
だからよく自分の方が友人の部屋に遊びに行った。 
二人とも話し出すとなかなか止まらず、よく夜明けまで話し込んでいた。 
隣が競馬場だったので、ふわりふわりと馬の朝のトレーニングをする影が朝もや越しに 
窓に映り込む不思議な光景を時々見た。 
とにかく空が明るんで来るまで話し込んで、それから死んだようにごろ寝することもたびたびだった。 
後から考えると、そのごろ寝をしてる時に、ワンルームに何でも詰め込んであって、 
大の大人二人がこたつに足突っ込んだままごろ寝して足の踏み場もないはずの狭い部屋で、 
ぱたぱた、ぱたぱたと子供の走る足音と、足が頭上を通過する時の風圧で 
自分の髪が多少揺れているのを知覚しつつ、 
「うるさいなあ…しかも人の頭跨ぎやがって失礼なガキだなあ…」 
とうすぼんやり思ったことが何度かあった。

そのうち、Tの部屋で話し込んでる最中TのCDラジカセが何の前触れもなく電源が落ちたり、 
自分の部屋でもCDラジカセのトレイが(聞いている最中に)いきなり 
ガシャーンという音とともに開いたりといったことが何度か起きた。 
(リモコンはテーブルのど真ん中にぽん、と置いてあって、二人とも触ってなかった) 
実家で今まで使ってきててそんな現象にあったことは一度もないラジカセが両方とも同時に 
似たような現象を起こした。 
そして二人の部屋で相次いでそれぞれのトイレの水を流すと 
ずっと流れっぱなしになって止まらなくなったので、 
元栓から閉めるようになった。 
これは設備が古いせいかもしれない、が、ラジカセの件もあったので 
ちょっと試しに部屋の隅に盛り塩をしたらトイレの不具合が多少直ったりした。
さらに、ややしばらくして、自分の親知らずがだんだん腫れてきて、口が開かなくなってきた。 
あまりに痛いので、固形物を口にすることもできずカ●リーメイトだけでしばらく生き延びた。 
しかし我慢できずに病院に行ったら(外科から口腔外科へ回された) 
「入院して下さい」 
「へっ? 今すぐですか?」 
「今すぐです。カ●リーメイトだけでは全然駄目です」 
そうして2週間ほど入院を余儀なくされたと思う。 
手術、抜糸、点滴、暇を持て余す、と自分が病人のノルマをこなしているとTが毎日来てくれて
また話し込んだりした。 
その話の中で、 
「最近あまり眠れない」 
というTの言葉もあったような気もしたが、その時は深く気にも留めていなかった。

退院してからまた、休日前には夜明けまで話し込む日々が続いた。 
話の中でまたTが眠れない、という話が出てきた。 
寝入りばなに、どこか暗いところに引っ張られて行って、 
そのままどこかに連れて行かれそうになる、というのだ。 
それが職場の昼休みの昼寝でも同じで、寝入りばなに何もない、 
真っ暗な虚空に引っ張られていくという。 
しかも、どこからが声がすると言う。 
「身辺整理しておけ…」 
老若男女の区別も付かない声だったらしい。 
おかげで眠れないという。 
ある時は同じく真っ暗な虚空に引っ張り込まれてポッカリと浮かんでいて、 
恐くて冷や汗をかいていると、亡くなったTの祖母の声がして、子供の頃のように 
「Tちゃん、Tちゃん…」 
と呼ばれて、それから明るい方に戻ってきた(目が覚めた)ということもあったという。
それからしばらく同じ現象に悩まされていたのだが、ある日職場で昼寝してると 
寝っ転がっている床から手足が伸びてきて、肩口には顎を乗せられて、 
誰かにぺたぺたぺたぺた触られた、と言う。 
床であるはずの下方から子供のような小さな人型のものがしがみついて来るような形だったと言う。 
Tは大層気味悪がっていた。 
その頃はもう夜明けまで語るのもさすがに辛いので、普通に夜寝ていた。 
しかしふとした折に不眠より先に便秘にまず悩まされていると言う話を聞いた時、 
どういう風に話が流れたのかは記憶にないが 
「なんだ、不眠っても便秘のせいやん」 
と自分は笑い飛ばしてしまった。 
(便秘の経験がある人は分かると思うが、単に腹痛を起こすだけでなく頭痛や腰痛や吐き気など 
様々な不快な症状が付随して来ることがある。もちろん深く眠れなかったりもする) 
元々Tの変な現象が自分にはあまりピンと来ていなかったので、あっさり笑い飛ばしたのだ。

それからすぐTの大学時代の友人が結婚するので、Tは式に招待された。 
少々遠方で泊まり込みでの出席になるので、ついでにというか好奇心からというか、 
自分がTの部屋にその間泊まってみることにした。 
もしかすると自分も何らかの現象に遭遇するかもしれない。 
しかしもちろん寝入りばなに虚空に引き込まれる、なんてことはその時点では全く信じていなかった。
が。 
早速来てしまった。 
今まで霊現象なんてものは見える人にしか見えないと思っていて、 
少なくとも自分は未だかつてそれに類する経験はしたことなどなかったにも拘らず、 
Tの今までの話と寸分違わぬ現象に遭遇した。

寝入りばなに、ふと気が付くと布団に寝ているはずの自分が真っ暗な虚空にぽかりと浮かんでいた。 
漆黒の闇、というのはこういうものかと思った。 
よくよく考えるとあり得ないのだが、一筋の光源もないのだ。 
それなのに自分が虚空に浮かんでることはわかるという。 
光源がないのにそれを視認できるというのはおかしな話だ。 
しかも体が動かない。 
これが噂の金縛りか? 目もろくに上手く開けられなかった。

その頃自分はあまり両親に近しい感情を持てなくて、それで実家を飛び出すことになったのだが、 
自分が生まれる半年前に癌で亡くなったひいじいさんが自分が生まれることを 
大層楽しみにしていた、という話をある時聞いて以来 
両親よりも会ったこともないひいじいさんをリスペクトしていたところがあった。 
単に全開で甘えられる対象が欲しかっただけ、という甘えだとは思うのだが。 
(なぜじいさんばあさんじゃなくひいじいさんなのかというと 
じいさんはひいじいさんよりもさらに前から不在だった。 
詳しく聞きほじったことはないが親が子供の頃離婚したのだという)
そして、妙に現実的なとこもある代わり恐い話も大好きだった自分は昔オカルト系の本で 
自分の干支に割り当てられているのが阿弥陀如来、 
ひいじいさんの干支に割り当てられているのが不動明王だ、ということを知って、 
その二つの真言だけ暗記していたのだった。 
「ひいじいさん、助けてくれよう」 
と思いながら、一生懸命不動明王と阿弥陀如来の真言をぐるぐるぐるぐる心の中で唱えていた。 
するとそれまで動かなかった体が、現実にはあり得ない速度でぐるん、と反転して 
シュタッ! と起き上がってしまった。 
頭をてこの支点にしてぐるん、と回った感じだ。 
この時の反転して起き上がって片膝ついたポーズがまるで漫画でカッコつけてるヒーローみたいで、 
後から思い返すと非常に恥ずかしかった。

さらに漫画チックな展開は続く。 
反転して振り向いたら虚空の先2、3m位のところに子供が横向きに立っていた。 
前述だが部屋は狭く、枕から壁までの距離は1mもなかったと思うのだが、 
壁も部屋も何もかも見えない虚空に、壁があるはずの位置よりもさらに向こうにその子供はいた。 
日焼けで褐色の細い足が半ズボンから出ていたが、ありがちなことにその先の足首が視認できなかった。 
上半身は白と薄緑のツートンカラーのトレーナーだった。 
横向きに立っていて、しかし目だけをじろりとこちらに向けて立っていた。 
通常現実に子供がするとは思えない悪意に満ちた目つきだった。 
ねめつける、と言う表現がピッタリだった。 
なぜかこいつは5歳だ、という声が頭の中で鳴り響いた。

その時自分の頭はからっぽで、恐いとすら感じていなかった。 
しかしどうにかしよう、という解決案を考えてもいなかったはずだが、勝手に自分の口が動いた。 
(ここがまた漫画のようで信じてもらえなかった) 
「なぜこんなことをする」 
ゆっくりとした口調がまた厳めしく、常には出ないような重低音が出た。 
その時ののどの収縮の仕方がまた常とは違った。 
またそうでもないとそんな低い声は出ないと思うのだが、のどの収縮する感じは今でも覚えている。 
しかしそれを再現しようとしても出来た試しは未だかつてない。 
現実にそこまで低い声を出すことは不可能だった。 
「お前が我が存在を無きものとしたからだ」 
子供は確か、そう言った。 
子供らしからぬこれまた古めかしい言い回しだった。 
声音も通常の子供の声音とは違う低い歪なものだった。 
すぐには言われたことが腑に落ちなかった。 
が、自分が便秘と言って笑い飛ばしたことだと気がついた。 
不眠が便秘のせいだと言う発言はその子供(幽霊)の存在の否定につながるからだろう。
次の行動がまた自分の頭とは別に体が動いた。 
繰り返すが自分は何も考えていなかった。 
自分がいつも思考している頭よりも少し上のところ、胸に響かないところで(誰かの?)何かが沸騰したらしい。 
(ほんとに何も考えず、感じていなかったので、まるで他人事) 
これもまた現実にはあり得ぬ素早さで、視認できるその子供の足首に両手でガッと飛びつき、 
「消えろ! 消えろ! 消えろ!」 
と何度も心の中で繰り返した。口には出さず、ひたすら念じていた。 
すると、嫌な笑い方で弓なりに唇を歪ませたままのその子供が、 
上の方から消えて行ってしまったのだった。 
しかし両足首をつかんでおきながら何だが、子供は絶対自分と正面から向かい合わなかった。 
消える時も横向きのままだった。 
とにかく嫌な笑いだった。胸に一物不穏なものを含ませつつ消えて行ったように見えた。

そのまま起きた。汗をかきづらい体質の自分が、冷や汗びっしょりになっていた。 
それから手近なノートに覚えているだけの今の出来事を書き付けておいて、また寝た。 
翌朝、結婚式に出席するために出かけたTから電話が来た。 
もちろん昨夜の夢のようなうつつのような妙な出来事を全て話した。 
便秘だと笑い飛ばしたこと、信じなかったことを謝りつつ報告した。 
それでも夢を見ただけだと言う可能性ももちろん捨てきれないのだが、とりあえず 
子供が出てきたところ以外は全てTの話と一致していた。 
Tの方は出先では例の経験(虚空に引っぱり込まれる)はなかったと言う。
それから一人で休日を過ごし、翌日Tが帰って来ることになっていた。 
昨日と違い入眠時には何も起こらなかった。 
起きる直前に夢を見た。 
無言でTが帰ってきて、ニヤニヤ笑っている口元が見える。 
そしてニヤニヤしたまま自分の寝ている枕の下に両手のひらを差し入れて、 
頭を持ち上げて来た。 
(頭だけ持ち上げられて首が曲がったようには感じなかった。 
全身寝たまま持ち上げられていたような感覚の方が近い) 
目を閉じているはずなのに嫌なニヤニヤ笑いがはっきり見えた。 
ただし無言だ。無言でニヤニヤしながら頭を持ち上げ続けている。 
(現実にはTはそういう嫌な笑いやいたずらをするやつではない) 
「何いたずらしてるんだよ、よせよ…」 
と思いながら目を覚ますと、自分の頭を支えていた手のひらの感触が、そのまま枕に変わった。 
なんとなくヤツ(子供幽霊)が嫌がらせに来たんだな、と思った。 
もちろん数時間後帰ってきたTにそれも話をした。 
その後はその現象が前ほど頻発しなくなった。(全く無くなりはしなかったが)

ややしばらくして、自分が通勤中に事故ってしまった。 
車体がひっくり返ったにもかかわらず自分は無傷だった。 
そうすると実家から「カエレコール」がうるさくなった。 
なんとなくヤツがTと自分を引き離したがってるような気がした(ヘンな意味でなく) 
自分がいるとTを引き込むのに厄介だと思ったのだろうか。 
というかそう考えると親知らずで入院したのも同じ発想の元、ヤツが仕組んだのではないかとも思った。 
(まあ考え過ぎだとは思うが) 
カエレコールをかわしつつ、廃車になった自分の車の代わりに来る新車を待ちながら 
代車で通勤していたある日曜の朝早く、 
「ドカーン!!」 
というものすごい大音響が鳴り響き、何事!? と寝ぼけ眼をこすりながら窓を開けると… 
台形のアパートの脇に止めてあった自分の代車とTの新車(ローンが終わった直後!)が… 
路上に斜めに飛び出していた。 
どうやら後ろに止めてあったTの車に三叉路を猛スピードで曲がった車がぶつかり、 
その反動で自分の代車に玉突き衝突したらしい。 
(三叉路の隙間の三角形の土地に立っているのでアパートの形が台形なのだった) 
自分の代車は道路の真ん中まで飛び出していた。 
やられた! と思ったが当の犯人は当て逃げして行ったのだった。 
しかし暫くして両親とともにしょんぼりと現れて(親の車で遊んでいたカー用品店の店員だった) 
とりあえず示談になったが… 
自分は代車、Tの新車は全損。下取り額は既に低く、かなりの出費でまた新古車を買うはめになった。

実家のカエレコールがますます激しくなったが自分は無視していた。 
ただこのままここに住み続けるのはヤバいかも、と思いはじめたので新しい物件を探して 
二人とも隣町に引っ越した。 
それ以降、その現象も妙に頻発したハプニングも無くなった。
ちなみに、>750で書いた「にゃぎにゃぎ」の友人はTで、職場で昼寝している時に聞いたという。 
もしかするとヤツの仕業かもしれない。 
と思いつつ、しかし単なる夢である可能性は捨てきれないが。

ただ、もしかすると入眠時の脳波の状態が、ちょうどヤツのような妙なもの、いわゆる幽霊とかと 
波長が合いやすい状態なのかもしれないと思う。 
またそういうのを見計らって、夢か現実かハッキリしないところでちょっかいを出しに来るのかもしれない。 
それでも、そんな朦朧とした状態で働きかけて来るということは、 
基本的に幽霊とはいっても現実をはっきり自らの働きかけで動かせるほどのパワーはないのではと思っている。 
(よほどの無念や恨みを持って死んだ者とかは例外かもしれない) 
多分生きている人間の方が強いんだろう。 
心理的な働きかけで気力を奪われない限りは多分。

長文スンマソ。

前の話へ

次の話へ