池で溺死した子供

11 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/01/27 22:38
父親が転勤して、かなりの田舎に引越しすることになった
頃の話。
中学も転校して、社宅から二キロ離れた学校に自転車通学。
当然ヘルメット着用。
街中で生まれ育った僕には慣れないことが多くて、最初は
かなりつらかった。
それでも半年くらいすると友人もでき、どうにか生活にも
楽しみを見出せるようになっていった。

近くには海や山があり、そこで遊ぶことは新鮮な体験だったし、
自然を満喫することができた。自分の性質に合っていたのかも
しれない。 

ある日、山ふもとの入会に池があるという話を友人から聞いた。
そこには大きなナマズやフナ、亀がいるとのこと。
僕はどうしてもそこに行きたくなった。
しかし、そこには子供が立ち入ることができないらしい。
何でも、水遊びしていた子供が溺死して、小中学校が立ち入りを
禁止したそうだ。
友人の一人が言うには、その池には死んだ子供の幽霊が出て、遊びに来た
子供達を池の中に引きずり込むとのこと。
友人らは素朴にそんな話を信じていることに、僕は少し反感を覚えた。
周りを説得して、その池に連れて行ってもらおうとしたが、皆嫌がって
やめとけと言うばかり。
何とかならないものかと考えたあげく、僕は実際に子供が溺死したか
確かめることにした。 

今なら役場に行って調べるなり、村の長老?みたいな人物から訊いてみたり
するのだろうが、当時の僕にそんな発想はなかった。
思いついたのは、村の墓地に行って、墓碑銘を片っ端から調べる事。
というのも、幽霊話がある程度具体的なものだったからだ。
初めに子供が池で溺死したのが二十年くらい前。翌年の同じ時期、
また子供が溺れ死んだ。その翌年もまた同じように・・・・

墓碑銘には享年が刻まれている。
村の墓地を調べれば、その話が事実かどうかすぐに分かるはずだ。
僕は友人の中でも一番地味で大人しいAを誘うことに成功した。
Aは乗り気ではなかったが、こちらの熱心な説得に仕方なく付き合った
ようだった。 

墓地に到着すると、僕らは端に分かれて調べ始めた。
そしてすぐに、それが結構骨の折れる作業だという事に気づいた。
強い日差しの中、同じ姓に混乱しながら古い墓碑銘を読むうち、
僕はなぜか罪悪感みたいなものも感じていた。
(知らない子供が死んでいる)というより、(村の子供が死んでいる)
という事実が重くのしかかった。
それに、二十年前に亡くなった子供の名前は見当たらなかった。
やがて一時間ほどすると、嫌気がさしてきた。
Aの方に目をやると、墓石の間から時折頭を覗かせているものの、
声をかけても返事が無い。
この区画を調べたらもうやめようと思いながら、苔むした墓碑銘の前にしゃがみこんだ。

それは僕と同じ苗字だった。
名前も僕と同じだった。
享年十四歳・・・・・僕の年齢だった。
二 十 年 前 に 死 ん だ 中 学 生 が 
僕 と 同 姓 同 名 だ っ た。 

立ち上がると、眩暈がした。
平衡感覚を失い、よろけて墓石に手をつくと、目の前にAがいた。

Aは僕の手を取って、強く引っ張った。
無表情で、僕をどこかに連れて行こうとした。

その時、僕は相手がAじゃないことに気づいた。
姿かたちはAなのだが、彼の印象がまったく感じられなかった。

怯えながらも必死にその手を振り解こうとしたが、Aらしき者はとても強い力で
引っ張り、僕は思わず悲鳴をあげた。

すると、背中から水が降りかかった。
誰かが読経していた。

Aらしき者は、急に僕の手を離し、墓石の間に姿を消した。 

「もうここに来ちゃいかんぞ」
背後に見知らぬ老婆が立っていた。

僕は返事もせず、走って逃げ帰った。

翌日、僕はAと学校で会った。
昨日のことを話すと、その日は家族と町に出掛けて家にはいなかったと言った。

    
                お わ り 

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