岐阜の旅館

653 :彼の地 :02/04/02 23:49 

じゃあもう一つ。 
この同じ3人だけでつるんでいる時に限って、あまりにしょっちゅう 
奇妙なことに巻き込まれるので、 
クラスで仲の良かった別の連れも誘って4人で旅行しようということになった。
それが、どういうわけだか誘った4人目の叔母さんが旅行当日の早朝亡くなり、 
結局3人で行くことになってしまったのだ。 
もう俺ら全員「オイ!これまた何か出るんじゃねえーのか!?」と思っていたんだが 
旅館は予約してあるし、行くしかないだろうと言うことでこの不吉な3人で出かけることに。

岐阜県のとある山深い旅館に着くと、俺らはなぜか奇妙な部屋に通された。 
普通の和室なんだが、よく見ると隣の部屋に面している壁だけが妙に新しく、色が違う…。 
それで3人そろって隣部屋の入り口を見に行ったんだがおかしい。 
本来入り口のあるべき場所が、やっぱり塗り潰されたように壁になっているのだ。

おかしい…。

俺らの部屋と、壁越しに繋がったその部屋の二部屋は廊下に囲まれているので 
廊下沿いに入り口があるかどうかぐるりと調べてみたが、 
その部屋は廊下に面した三方と、俺らの部屋に面した一方の全てが壁でふさがれているのだ。 
「おい…ここ確実にもう一部屋あるよな…」 
メチャクチャ気になったんだがその日は疲れていたこともあり、 
温泉につかると3人ともすぐに眠ることにした。 
いやに寝苦しい夜だった。

深夜。 
三人の丁度真ん中で眠っていた俺はふと目が覚めてしまった。 
いつもうつぶせで眠る癖があるのだが、枕に押し当てていた顔を上げると

目も鼻も口もなく、髪もないただ輪郭だけの顔がこっちを見て笑っていたのだ。 

出た!!!!! 
俺は全身の血の気がさあっと引くのを感じたが、 
布団の横から手を出して、隣に寝ていた二人の連れを必死につかみ起こした。 
「…なんだよ?何か出たのか?」 
「い、い、今俺の顔のすぐ近くで何かが笑ってた!! 
顔に目鼻も何も無いのに、笑ってるのがわかった!」 
俺たちは飛び起きて部屋の電気を着け、眠れぬままに朝を迎えた。

寝不足のまま迎えた朝。 
連れの一人が表の洗面所で顔を洗い、部屋を通り過ぎて奥にある中庭を見ようとした時、 
ふっと横を見るとガラス窓に自分の真っ赤な顔が映っていたらしい。 
その時はまぁ冬だし寒いからなと思っていたらしいが、 
部屋に戻ってよく考えてみると顔の映った場所は、隣の部屋の壁。 
そんなところにガラスなんてない!! 
一体あの赤い顔はなんだったんだ!

塗り潰された壁といい、笑う顔といい、壁に映った真っ赤な顔といい、 
あまりに気味が悪すぎる。 
何も見ていない最後の一人がついにキレた。 
隣に面した、あの色の変わった壁をドンドン叩き始めたのだ。 
「おい!!誰かいるのか!!何か言いたいことがあるんだったら出て来い!」

そしてそいつは壁に耳を押し当て、隣室の物音を探った。すると…

「入る?」

という素の女の声が中から聞こえてきたそうだ…。

宿の人にこのことを訴え、聞いた話を要約すると、どうもこうらしい。

昔、あの部屋に泊まった妊婦さんが急に産気づいてしまい、 
産婆を呼んで出産をすることになった。 
しかしひどい難産で、結局母親も子供も死んでしまった。 
出産のありさまがあまりにひどく、部屋中に母親と子供の血が大量に飛び散ったため、 
壁を作って部屋をふさいだ。

俺たちは旅館の土産物屋でこけしを買い、供えて帰った。

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