米びつ

925 :クランツ ◆Xgg113Pc :02/01/16 00:23 
 
…今度はスレッドタイトルに沿った話を。
ウチの両親、オレが小さいときから共働き。 
で、小学校卒業まで日中は母の実家で育てられておりました。 
その実家というのが創業百数十年の老舗の鰻屋。 
昼時はもちろんてんやわんやの大忙し、そんな時でも 
幼いオレは独りでおとなしく遊ぶことの多い子どもだったとか。

で、幼稚園に上がる前の記憶、時は昼。 
店舗部分と住居部分の境に位置する大きな倉庫、 
その入り口にある年代モノの大きな「米びつ」の中を覗くと、珍しく中は空。 
昼時ゆえ大人たちの目もオレには届かない。 
何の迷いもなくその中へ入ってみる。 
頭上から蓋を閉めるとき、もうもうと立ち込める鰻の煙で 
あたりが白けて見えたのを覚えている。

漆黒の闇。

…当り前だが息苦しさを覚えたオレ、蓋をそっと空けてみる。 
倉庫の向こうに見える居間の風景。 
そのとき、テレビの前にこちらに背を向けちょこんと座る男の子が見えた。 
画面に釘付けのあの男の子は誰だろう? 
オレ以外の子どもなど、この家には居るはずがないのに。 
瞬間、例えようのない恐怖に襲われて米びつから飛び出そうとし 
棚でしたたか頭を打った。目から火花、でも泣きもしなかった。

居間へ駆け上がると、テレビの画面は真っ黒。誰が居るはずもなく。 
でも気付いていました、あの男の子は自分以外の何者でもないということを。

長文失礼、後日談の追記あり。

…で、後日談。
鰻屋の住居部分、中でも二階に上がる階段は黒光りするほどの年代モノ。 
オレが中学生の頃、爺ちゃんが「面白いもの見せてやる」と 
階段の途中、壁の上のほうを指差す。

<○○子、本日寝小便し候  明治45年某日>

壁を釘で引っ掻いて書いた、他愛もないラクガキがあちらこちらに。 
げらげら笑って眺めていたその時。

<米櫃に入り遊ぶ 廿日>

年代こそ書かれてなかったけど、やはり釘で引っ掻き引っ掻き書いた 
落書きを見つけて、血の気が引きました。 
オレ、「米びつ」の中に入っていたとき確かに 
「これがタイムマシンだったら!」なんてコトを考えつつ 
暗闇の中で高揚していたのをありありと思い出したからです…

…オレが高校を卒業する頃、老朽化した部分の改築工事が行われて 
ラクガキのある階段も取り壊されてしまいましたが、 
今でもその米びつは現役のはずです。

もう何年も帰ってないなぁ、、

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