転倒していたバイク

208 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/12/22 23:09
 以前友人から聞いた話だが、ちょっと不可解な話。
ある夜、友人は彼女と夜のドライブを楽しんでいた。
風が強い寒い夜で、星が綺麗だったと言う。
その星空を眺めに、市内から離れて郊外へ、さらに人気の無い高台へ
と向かっている途中のこと。ゆるいカーブに差し掛かると、
転倒していいるバイクが目に入ってきた。
友人は慌ててハンドルを切り、車を止めた。
事故に違いないと思い車から降りると、当たりに怪我人が
いないか確認した。バイクは路肩に転がっており、
そこにはガードレール。その下は藪と雑木林。かなり落差があった。
(下に落ちてるかもしれない)
友人は心配になって、車内にいる彼女に告げた。

「警察に通報しよう」
彼女は不安げに、関わり合いにならない方がいいと言ったそうだ。
友人も一抹の不安があった。
バイクのオイルタンクはまだほのかに暖かかったが、日章旗の
ステッカーがあったそうだ。暴走族仕様の改造車。
にもかかわらず、友人は通報した。
警察が来る間、彼女は門限を気にして、家族に何度も携帯から電話していたそうだ。
やがてパトカーが到着して現場検証が始まり、友人は幾つか質問された。
彼女は気分が悪くなったそうで、友人が状況説明している間、車で寝ていたらしい。
警察から解放された頃には、もう深夜になっていたそうだ。 

彼女を自宅まで送る途中、友人は寝入っている彼女を起こそうとして話し掛けた。
「そろそろ家に着くよ」
すると彼女はぱっと目を開けて、友人を睨みつけたと言う。そして
「いちいちうるせぇんだよ、てめぇ」
友人は驚いた。そんな口のきき方をするのは初めてだった。
そして彼女はすぐに気を失ったように寝入ったそうだ。
自宅についてもぼんやりしているふうで、ふらふらと家に入っていったらしい。

その出来事があって一月以上経った頃、警察署から友人に電話があった。
あの夜のことをもう一度詳しく聞きたいとのこと。
友人も気になっていたので、二つ返事で出頭することにした。

警察はバイクが転倒していた時間を知りたがっていたという。
たぶんその時刻の少し前に、バイクに乗っていた可能性がある少年の家族から、
捜索願が出されたらしい。
虫の知らせというやつだった。
バイクは盗難されたもので、それを乗り回していたらしい少年は行方不明。
おまけに少年が属するグループは傷害事件を起こしていた。
「で、結局どうなったんだ?」
俺は友人に訊ねた。
「何も。当事者じゃないからな。その後のことは知らん」
「その暴走族の奴は見つかったのか?」
「名前も知らないし、会ったことも、、、、、」
「どうした?」
沈んだ表情になった友人に俺が問い掛けた。
「付き合ってた彼女だけどさ」
友人は溜息をついた。
「ヤンキーにナンパされて、そいつと付き合ってるみたいだ」
「あの日以来、すっかり性格が変わっちまったよ」
「お嬢様タイプの真面目な短大生だったよな」
俺が絶句すると友人がぽつりと言った。
「何があったのかな」

                  おわり 

前の話へ

次の話へ