ひいばあちゃんのベッド

353 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :02/10/10 23:47 
僕は十歳、弟は六歳だった。田舎の親戚の家へ遊びに行った時の出来事。
家というより屋敷と呼ぶのがふさわしいような、古いけれと立派な建物だった。
その日は大人たちがみな出かけていて、僕と弟だけで留守番をしていた。
屋敷の一番奥にあるひいばあちゃんの寝室で、僕はマンガを読み、普段は
騒がしい弟もその時はおとなしく絵本か何か読んでいた。日当たりも風通しも
悪い部屋だったけれど、なぜか僕らはそこがお気に入りだった。

ひいばあちゃんというのが、もう八十を越す年齢だったけれど、
若い頃からハイカラな趣味の人で、その屋敷の一番奥の和室に絨毯を
敷き詰め、部屋がいっぱいになるほどの大きなベッドをしつらえていた。
足やら頭のとこの板に浮き彫りが施してある豪華なベッドで、
その時はシーツだか上掛けみたいなので覆われていた。薄いピンク色の
つるつるした生地で、たぶん絹だったと思う。 

マンガに飽きたのだったか、それとも何か気配を感じたのだったか、
僕がふと目を上げると、ベッドの真ん中のところのシーツがぽこっと
まるくふくれていた。ちょうどバレーボールくらいの大きさだった。
何だろうと思って見ていると、その丸いのが上に持ち上がるような感じで、
ふくらみが成長し始めた。しゅるしゅると衣擦れの音を立てながらみるみる
大きくなり、ちょうど子供が体育座りをしているような形と大きさになって、
もうちょっと大きくなればシーツの裾から下が見えると思ったその時、
「うーわー」と弟が間抜けな声をあげた。びくっという感じでそれは動きを
止め、一、二秒そのまま固まったあと、スッと一瞬でいなくなって、ふんわりと
優雅に波打って皺になったシーツだけが残った。恐いもの知らずの弟が
駆け寄ってめくってみたが、何も変わったものは無かった。

その晩夕食の席で弟がそのことを口に出した。
「あのね、今日ね、ひいばあちゃんのベッドがね、こう、むくむくって……」
普段から突拍子も無いことを言い出す奴だったので、大人たちがみな
はいはい良かったねと聞き流す中、ひいばあちゃんの皺だらけの顔が
一瞬ニヤリと笑った――ように見えた。

三年後ひいばあちゃんが他界した時、弟はもうあの出来事のことを
忘れてしまっていた。それからすぐに屋敷は取り壊され、例のベッドも
一緒に捨てられたものと思う。あの時はシーツの中を見れなくて残念に
思っていたが、今は声を出してくれた弟に感謝している。

前の話へ

次の話へ